若き頃は、自分の生きる道、己のあるべき姿を思い描きながら、その目標を見失わないために格言、諺(ことわざ)、偉人たちが残した名言などを心に抱き、日々の生活を送っていたように思います。そうして半世紀以上を経て、己の人生を振り返った時、かつて思い描いていた姿とはかけ離れたものかもしれません。
しかし、人生折り返しと考えるならば、新たな「あるべき姿」を描き、生きることもできるようにも思います。そんな第二の人生ために、改めて座右の銘とする言葉を持つのは如何でしょうか?
第41回の座右の銘にしたい言葉は「敵に塩を送る(てきにしおをおくる)」 をご紹介します。
目次
「敵に塩を送る」の意味
「敵に塩を送る」の由来
「敵に塩を送る」を座右の銘としてスピーチするなら
最後に
「敵に塩を送る」の意味
「敵に塩を送る」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「敵の弱みにつけこまず、逆にその苦境から救う」とあります。一見すると不合理や矛盾に思えるかもしれませんが、この言葉には深い道徳的教訓が込められています。
シニア世代である読者の皆さんにとって、人間関係や社会とのつながりはますます重要になっています。この言葉を座右の銘とすることで、周囲との関係性をよりよいものにするヒントを得られるはずです。
「敵に塩を送る」の由来
この言葉の由来は、戦国時代に遡ります。越後の国(現在の新潟県)を治めた武将・上杉謙信が、当時敵対関係にあった武田信玄を助けたという逸話が語源となっています。
戦国時代、武田信玄が治める甲斐の国(現在の山梨県)は内陸に位置しており、海からの物資供給が難しい土地でした。敵対していた東海地方を領地とする、今川氏真(うじざね)と関東地方の北条氏康(うじやす)は武田領への塩の販売を禁止してしまいます。
それを知った謙信は、「敵が弱る姿を見たいのではなく、正々堂々と戦いたい」と言って海から運ばれる貴重な「塩」を商人に命じて、公正な価格で武田領に販売させたといわれています。
実際にこのエピソードが史実かどうかは確定していませんが、日本文化における「寛容の心」を象徴する大切な示唆を与えてくれるものです。
現代では、競争社会であることやインターネットの普及により、むしろ対立や批判が際立つ場面も多いかもしれません。しかし、困っている相手を助けることで、結果的に自分自身の価値を高めることができるという謙信の精神は、今なお胸に刻むべきではないでしょうか。
「敵に塩を送る」を座右の銘としてスピーチするなら
「敵に塩を送る」を座右の銘としてスピーチするときは、歴史的背景を簡潔に説明しながら実際のエピソードや経験を交えることで、メッセージが伝わりやすくなります。以下に「敵に塩を送る」を取り入れた、スピーチの例をあげます。
寛容さが自己の成長につながるスピーチ例
皆さん、今日は「敵に塩を送る」という言葉についてお話しします。この言葉は、たとえ敵対する相手であっても、困っている時には手を差し伸べるべきだという教訓を示しています。戦国時代、宿敵である武田信玄に塩を送った上杉謙信の逸話は有名です。
現代社会において「敵」とは、必ずしも戦争の相手だけを指すのではありません。競合他社、意見の対立する人、あるいは自分自身の弱さや欠点など、様々な解釈ができます。
先日、部署間のプレゼンで、ライバルチームが資料作成に苦戦しているのを見かけました。私は過去の経験から、彼らが抱えているであろう問題を予測し、解決策を提案しました。結果として、彼らのプレゼンは成功し、部署全体としての成果にも繋がりました。
この経験から、敵に対しても寛容さを持つことが、最終的には自分自身の成長につながると実感しました。皆さんも、この言葉を心に留め、日々の人間関係に活かしてみてください。
最後に
人生において、対立や誤解は避けられません。「敵に塩を送る」という言葉は、そのような場面で冷静さと寛容さを持つ重要性を教えてくれます。この言葉を座右の銘として胸に刻むことで、どんな人間関係においても成熟した対応ができるでしょう。ぜひ、この美しい言葉をあなたの心に置いてみてはいかがでしょうか。
●執筆/武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com