日本画家・堀文子さんが亡くなって5年になるが、いまだに各地で展覧会が開かれる。なぜ今、「堀文子」に注目が集まるのか。あらためてその魅力を探る。
坂田明さんが語る堀文子の命への眼差し「どんな小さな生き物にも等しく命が宿っているのです」(堀文子)
解説 坂田 明(さかた あきら)さん(79歳)
今年の5月から6月にかけて三島(静岡県)や名古屋(愛知県)の美術館で堀文子さんの回顧展が開催され、その様子は全国紙の文化欄でも大きく取り上げられた。2019年に100歳で亡くなってから5年が経つというのに、堀さんの作品を常設展示する画廊・ナカジマアート(東京・銀座)には、「初めて堀文子を知った」と何人も訪ねてきたという。
なぜ今、堀文子なのか。
ミジンコ研究家としても知られる坂田明さんは、堀さんとミジンコを通して10余年の付き合いがあった。堀さんは大磯(神奈川)のアトリエで庭の甕の中にミジンコを飼っていたが、それは坂田さんから贈られたものだ。
「ミジンコを顕微鏡で観察すると命が透けて見える。心臓や血流、便の流れまで、全部、透けて見えちゃう。堀先生がそれを見て、ここに“生と死のドラマが凝縮されている”“一滴の水の中に無限の宇宙が広がっている”といつも驚嘆していました。でもそれを絵に描こうとしたのは、世界広しといえど、堀先生だけだと思います」(坂田さん、以下同)
命のつながりを表現する
堀さんは一貫して、自然界の「命」を見つめてきた。
ミジンコのような微生物。誰も見向きもしない名もなき雑草。あるいは、虫に食われた枯葉や蜘蛛の巣。こうしたものに、命の輪廻──命のつながりを見て、その感動を堀さんは絵にした。
「堀さんは関東大震災や太平洋戦争を体験してきた人です。命の無常さも、人の命をないがしろにしてきた歴史も知っている。80歳を過ぎても、権力者の横暴に本気で腹を立て、世界各地の戦争には心を痛めていました。だからこそ、ミジンコのような微小な生物の“命”を描こうとしたんだと思います。その眼差しが、今を生きる人々にも伝わるのでしょう」
堀さんがミジンコに目を向けたのは、自身の病気もきっかけだった。83歳の春、解離性動脈瘤で緊急入院し、生死をさまよった。
ところが一夜明けると、奇跡的に回復。この時堀さんは、自分の中の細胞が懸命に闘ってくれたことがわかったのだという。
《それから眼に見えない生命の働きに惹かれ、微生物へと関心が向いたのです》(『サライ』2008年18号)
だが、日常生活で「命」に思いを巡らせることはほとんどない。人間だけが、地球上の命のつながりがわからなくなっているのではないか、と坂田さんは考える。
「僕がやっているジャズも、自分が生きている意味を問うことなんです。命を感じることが根底にある。堀先生も一貫して、命のつながりを描いてきました。だからこそ、堀先生の絵に心を揺さぶられるのではないでしょうか」
ひまわりの「最期」を描いた作品に衝撃を受けて制作した『枯れたひまわり』
坂田明さんが制作したアルバムに『枯れたひまわり』がある。このジャケットに使ったのが、堀文子さんの作品『終り』だ。
「これはとんでもない絵です。咲き誇るひまわりを描くならわかりますが、死を目前にした命を描いているんですから」(坂田明さん、以下同)
堀さんがイタリアのトスカーナ地方で描いた枯れたひまわりだ。
※オンラインストアでのみ販売 http://bridge-inc.net/
次世代の輝き
《ひまわり畠の終焉は、その時の私の何かを変える程の衝撃だった。ひまわりは頭に黒い種をみのらせ、生涯の栄光の時を迎えていたのだ。大地を見つめる顔は敗北ではなく、そのやせた姿にも解脱の風格があった。その顔一杯の種は、次の生命を宿し充実していた》(『ひまわりは枯れてこそ実を結ぶ』)
堀さんは、枯れたひまわりに、次世代の輝きを見たのだ。
「終わりの中に次の命を見る。この視点こそ、堀さんの命への眼差しですね」
【企画展】堀文子の仕事 こどものための絵本原画展が開催
「子供にとって、絵本の絵はこの世で知る最初だから、最も良いものをみせなくてはいけない」と堀さんは晩年のインタビューで語っている。手掛けた絵本や挿絵の数々は精魂込めた作品だった。
企画展「堀文子の仕事 こどものための絵本原画展」は11月14日(木)から27日(水)まで、東京・銀座のナカジマアートで開催。『グリム童話2』挿絵(上「ヘンゼルとグレーテル」)、野口雨情『どうよう』装幀画など、昭和25年頃から20年余りの間に手掛けた、色鮮やかな絵本の原画を35点公開する。
ナカジマアート
住所:東京都中央区銀座5-5-9アベビル3階
電話:03・3574・6008
開館時間:11時〜18時30分
料金:無料
定休日:無休
交通アクセス:東京メトロ銀座駅より徒歩約1分
花を描いた版画をお手元に
堀文子さんほど「花」を愛し、描き続けた画家はいないのではないか。
好きな花を探し、気に入った花があれば、真っすぐに近づき、その花と向き合った。形、色、風姿……命の不思議に感じ入り、時々の感動に突き動かされながら、花びら、葉、一枚一枚を描いた。
《咲いては散ってゆく生命の流れ、私は花の命そのものを描きたいと思う》(『ひまわりは枯れてこそ実を結ぶ』)
堀さんの「花の命」への感動の痕跡──花の傑作が、版画として蘇った。
堀文子 名作版画 『花籠』額装
ナカジマアート(日本)
商品番号 75412-005-00
税込み価格 11万3300円
画寸縦34.4×横24.5cm
額寸縦55.8×横45.6cm
用紙 ベランアルシュ
版数 30版30色
●特別送料900円
●あわせ買い不可
●額は木、アクリル、布、紙。吊り下げ紐付属。日本製。 ※「版画」には直筆サインは入りません。