店に足を踏み入れると目につくのが、“瑞穂収穫バゲット”だ。個性的なフォルムとゴツゴツとしたクラスト(表皮)で、貫禄がある。「こねるときも成形も、生地には必要最小限しか手を加えません」とにこやかに話すのは、オーナーシェフの渡邉涼太郎さん。さらに独創的なのが、すべてのパンに“麹”を使って焼いていること。

麹を使ったパンはどこか懐かしさがあります

「日本人がホッとする甘みや旨み、食感は、麹の力で生まれます」
渡邉さんが麹の魅力に気づいたのは、2年に及ぶフランス修業中だった。ロワール地方のトゥールに住む日本人の友人を訪ねたとき、出された味噌汁のおいしさにしみじみ感激したという。今まで身につけてきたパンのレシピは、モルト由来の糖分が旨みに繋がり、一口目のインパクトに重点を置いている。甘さの点では麹も同じ。ならば、と心地いい旨みと食感が出せる麹を使うことにたどり着いた。
帰国してから愛知県の名古屋で独立を果たしたが、図らずも、みりん、味噌、醤油などの独自の麹文化が根づいた地。麹や調味料を厳選し、試行錯誤を経た結果、パンと水、米麹を合わせた“パン甘酒”、麦麹と醤油を合わせた“醤油麹”、米麹と小麦粉、湯を合わせた“湯だね小麦麹”などの手づくり麹がずらりと並ぶほどに。これらをパンの種類によって加える量を変え、生地をつくる。麹を巧みに操る魔術師のようだ。

バゲットができ上がるまでは、まず水と麹を混ぜたものに粉を加えてこね、麹の力を最大限活かすため、じっくりと48時間以上発酵。成形は先に述べたように、指先でやさしく整えるのみ。その後ガリッと焼き上げる。香ばしいバゲットは、かみしめるたびにほのかな甘みと旨みがじわじわと広がり、余韻が長い。しかも麹の効果で消化がよく、体にもやさしいというから、毎日でも食べたくなる。


●涼太郎
住所:愛知県名古屋市瑞穂区彌富町茨山21-1
電話:052・880・4965
営業時間:11時頃〜17時
定休日:日曜、月曜
交通アクセス:地下鉄名城線総合リハビリセンター駅より徒歩約15分
取材・文/石出和香子 撮影/伊藤菜々子
※この記事は『サライ』本誌2026年3月号より転載しました。












