夏の季語である「あんみつ」。カラフルで涼しげ、どこか懐しい甘さが万人を魅了する。直球から変化球まで、味わいたい逸品を紹介する。
クラシカルな店内で発見するコーヒーと餡の取り合わせの妙
全国に5店、北原白秋の詩集『邪宗門』の名を付けた喫茶店があり、そのひとつが東京・代田の住宅街のなかに佇む。戦後まもなく、名和孝年(なわ・たかし)さんというマジシャンが開いた喫茶店の熱烈な常連客らが、その名を冠して同様に店を開いた。マジックとコーヒーに精通することが条件だったという。
作家の森茉莉も足繁く通ったという店内は、骨董の火縄銃や柱時計、年代物のカメラやランプなどが飾られ、クラシカルな趣。門主(店主)の作道明(さくみち・あきら)さん(90歳)が、あんぱんとコーヒーの相性がいいことから作った「あんみつコーヒー」が名物となっている。
抹茶碗で最後まで楽しむ
蜜の代わりは深煎りのブレンドを濃いめに淹れたコーヒー。これを一気に寒天と餡、バニラアイスの上にかける。イタリアンローストのコーヒーの濃厚な苦みと甘くしっとりとした餡、固めの寒天、軽やかなアイスが渾然一体となる。最後に、供された抹茶碗に残ったコーヒーを飲み干す。計算され尽くした一品に思わず膝を叩いた。
「うちはコーヒー屋だから、あんみつコーヒーなんだ」と門主は晴れやかに笑った。
邪宗門 世田谷店
東京都世田谷区代田1-31-1
電話:03・3410・7858
営業時間:9時~17時、土曜・日曜・祝日~18時 平日早仕舞い有り
定休日:水曜、木曜(不定休有)34席。
交通:小田急線下北沢駅から徒歩約15分
取材・文/関屋淳子 撮影/宮地 工
※この記事は『サライ』本誌2024年9月号より転載しました。