夏の季語である「あんみつ」。カラフルで涼しげ、どこか懐しい甘さが万人を魅了する。直球から変化球まで、味わいたい逸品を紹介する。

小倉餡あんみつ790円。こし餡もある。持ち帰りは690円。店内では果物などを使った季節限定のあんみつなどが味わえる。

天草の香りと出来たての寒天の歯ごたえが素朴なあんみつの味わいを引き立てる

大正3年(1914)、寒天や求肥の製造卸として創業した『讃岐屋』。持ち帰りでも好評のあんみつは、寒天と赤えんどう豆、求肥、餡というじつにシンプルな姿である。琥珀色の寒天に黒蜜を纏わせて口に運ぶ。大きめの2cm四方の寒天はしっかりした弾力があり、すっきりとした甘さの黒蜜とよく調和する。そう、この店のあんみつは、寒天の旨さを味わうものである。

よどみなく包丁を入れ、通常より大きめの2cm角に切り分ける。寒天の味が、あんみつの旨さを左右する。

店を守る3代目の福原豪(ふくはら・つよし)さん( 59 歳)は、30年ほど前、安定した美味しさの寒天を作るため独自の製法を開発した。参考にしたのは群馬での蒟蒻(こんにゃく)づくりに用いられている濾過方法である。
 
原料の天草(てんぐさ)は伊豆産の上質なものを用いているが、どうしても海藻独特のえぐ味が出る。1時間ほど圧力釜で煮た煮汁を濾過機で濾過し、えぐ味を抑えた純度の高い寒天を作り上げた。

伊豆の専門業者から仕入れる上質の天草。寒天の原料となる天草は海産の紅藻類の総称で、天日干しすることで黄色くなる。

「寒天はあまり磯の香りが強いと、あんみつには向かないので、その加減を大切にしています。食べ応えのある寒天を引き立てるのは豆の塩味と餡の甘みです」(福原さん)

寒天だけでなく、求肥の旨さにも驚く。もっちりした食感とほんのりした甘みに思わず頬が緩む。

寒天の出来具合を確認する3代目の福原さんと2代目で工場長の岡さん。『讃岐屋』の屋号は、初代が香川県出身であることに因む。

川沿いの縁側に座って

店舗は高田馬場の神田川沿いに伸びる遊歩道に位置、春は桜並木の名所だ。店の前には道行く人が腰を下ろせるようにと、縁側が設えてある。ここで入店を待つ客らをもてなすのは、御年85歳の工場長、岡範子さん。水溶性食物繊維が多く含まれる寒天の効果か、肌がつるつるである。寒天は美容や健康にも適した食であった。

寒天工房 讃岐屋

縁側が目印。

東京都新宿区高田馬場3-46-11
電話:03・5489・5489
営業時間:12時~15時30分、持ち帰りは11時~17時
定休日:水曜 12席。
交通:西武新宿線下落合駅から徒歩約7分

※この記事は『サライ』本誌2024年9月号より転載しました。

『サライ』2024年9月号特集『「あんみつ」なら、この店』。

 

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