人生100年時代となり、元気な高齢者の数は増えました。それに伴って、定年後も働き続ける人の数も増加しています。多くの人は再雇用制度などを利用して、今まで勤務していた会社で働き続ける道を選んでいます。再雇用は、今までとあまり変わらない環境で働けるというメリットがありますが、実際に手続きする上ではいくつかの注意点があります。
今回は、再雇用の手続きを中心に、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。
目次
再雇用される際の契約
再雇用で必要な手続き
失業保険はどうなる?
まとめ
再雇用される際の契約
定年後再雇用の手続きの中で、最も重要なものは雇用契約です。定年後再雇用はどのような制度なのか、契約内容はどうなるのかについて見ていくことにしましょう。
再雇用の契約とは?
「高齢者雇用安定法」により、企業は仕事を続けることを希望する人全員に、65歳までの雇用を確保することは義務付けられています。政府はさらに70歳までの雇用を推奨していますが、現在のところ65歳以上の雇用確保は努力義務にとどまっています。雇用確保の措置は、定年の廃止、定年年齢の引き上げ、継続雇用制度の導入のうちいずれかの制度をとることとなっていますが、7割以上の企業が継続雇用制度を選択しているのが実状です。
いわゆる定年後再雇用は、継続雇用制度の一つです。継続雇用といっても、いったん定年退職するわけですから、会社と新たに雇用契約を結ぶことになります。タイムスケジュールとしては、定年の半年前頃に面談があり、3か月前に意思確認、1か月前までに契約を交わすという流れがよく見られます。定年後再雇用の契約では、雇用期間を1年として、1年ごとに契約を更新する形をとっている企業が多くなっています。
再雇用後の待遇はどうなる?
定年後再雇用の契約では、給与などの待遇はどうなるのでしょうか? できれば、今までと変わらない条件で働きたいと考える人も多いと思いますが、定年前と待遇がまったく同じという会社は少数にとどまっています。65歳までの雇用確保は企業の義務となっていますが、待遇を維持することは義務化されていないからです。
再雇用制度を導入している企業は、業務範囲や職責を小さくする、勤務日数や労働時間を減らすなど、再雇用後は仕事に何らかの変化を設けているケースが大半です。それに伴い、賃金が定年前の5割から7割に減額されることが一般的となっています。雇用契約書のなかで注意しなければならないのは、次の項目です。
・契約の期間と更新できる上限の年齢
・業務内容・就業の場所
・労働時間・勤務日数など
・社会保険の適用
・給与・賞与・昇給の有無など賃金に関する事項
特に賃金に関しては、後にトラブルになることが多いので、契約内容をしっかり確認して、疑問点などは明らかにしておきましょう。
再雇用で必要な手続き
定年後の再雇用は、1日も間をおかずに継続雇用となるケースが多く、年次有給休暇なども継続勤務しているものとして扱われます。雇用保険の被保険者期間もそのまま継続することになりますので、特に手続きは必要ありません。ただし、週の労働時間が20時間未満に変更になると、雇用保険の被保険者の資格喪失届を提出することになります。注意が必要なのは、健康保険と厚生年金です。
これらの社会保険の保険料は報酬の金額によって決まりますが、定年後は給与が下がる人がほとんどです。通常は給与が低下しても、保険料はすぐには下がりません。固定賃金の変更があってから4か月目に保険料が改定になります。そのため、定年後3か月間は高い保険料のまま給与から控除されることになり、負担に感じる人もいることでしょう。
社会保険の同日得喪とは
このための対策として、社会保険の同日得喪という手続きがあります。これは被保険者の資格喪失届と取得届を同時に提出するもので、再雇用後の標準報酬に応じた保険料に直ちに改めることが可能になります。また、賃金の低下に対応する制度としては、雇用保険の高年齢雇用継続給付というものがあります。これは60歳以降の賃金が、60歳前の75%以下になったときは、低下率に応じて最大で低下後の賃金の15%までの給付が受けられる制度です。
雇用保険の被保険者期間が5年以上という条件のほか、受給できる賃金額の上限があります。自分が対象者かどうかは、会社の人事やハローワークなどで確認しましょう。申請は会社を通して行なうことが原則ですので、ほとんどの場合、会社が手続きを代行してくれます。
失業保険はどうなる?
定年退職後も、労働時間が週20時間未満にならない限り、引き続き雇用保険の被保険者となります。したがって育児・介護休業給付や教育訓練給付なども定年前と同様に申請することができます。ただ、長年雇用保険の保険料を払い続けてきた人からすれば、失業給付がもらえるかどうかは気になるところだと思います。定年を迎え、そのまま退職するのであったら、失業給付は受けられます。
基本手当対象者の場合、定年退職は正当な理由のある退職として扱われますので、7日間の待期期間経過後すぐに手当が支給開始となります。定年退職者の場合、申し出により受給期間を1年間延長することもできますので、じっくりと再就職を探すことも可能です。一方、定年後再雇用の場合は、当然ながら失業給付は受けられません。失業給付は求職活動をする人のための制度だからです。
ただし、再雇用されてから再び退職に至った場合は、失業給付を受けることができます。この場合、被保険者期間は定年前から通算されますので、再雇用後の短い期間で給付額を算定されることはありません。また、65歳になり、雇用契約期間の終了により失業した場合は、高年齢求職者給付金を受給することが可能です。
まとめ
定年後、今までの職場で再雇用される場合は、面倒な手続きはそれほどありません。再雇用後の手続きとしては、社会保険の同日得喪や高年齢雇用継続給付などがありますが、これらは会社が手続きをしてくれるものがほとんどです。ただし、雇用契約書を交わすときは、労働条件や賃金などの内容を十分に確認する必要があります。定年後の生活設計をよく考え、納得したうえで再雇用後の仕事に臨みましょう。
●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)
社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com