日本人、特に料理好きから熱狂的に愛される料理のひとつである「アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ」。イタリア料理の原点とも呼ばれ、食材や調理工程はシンプルながら作り手によってその解釈は異なります。乳化はどうする? 茹で汁の塩分濃度は? にんにくはどう処理する? 他の調味料はNG? パスタの太さや種類は? ……とペペロンチーノは知れば知るほどその深みにはまり、迷走してしまい、簡単なはずなのになかなかうまくいかない摩訶不思議な料理なのです。
『俺のペペロンチーノ 鉄人シェフ18人が作る基本&アレンジレシピ』(玄光社)では、落合務シェフをはじめ、名だたるイタリアンの名シェフや、フレンチの鉄人坂井宏行シェフなどイタリアン以外のシェフたちも含めた18人によるペペロンチーノレシピが披露されています。そこで今回は、5回にわたって名シェフたちの「基本のペペロンチーノのレシピ」をご紹介します。本書では、基本のレシピ以外に、シェフたちの独創的なアレンジレシピも紹介されているので、気になった方はぜひ手にとってみてください。
第4回は、日本の洗練されたイタリア料理の礎を作った日髙良実シェフの登場です。
●日髙良実(ひだか・よしみ)
日本調理師専門学校卒業後、フランス料理店に入店。その後、イタリアンレストランを経て、銀座の「リストランテ ハナダ」へ。イタリアンの魅力にひかれて1986年にイタリアに渡り、名店「エノテカ・ピンキオーリ」を皮切りに、各地の郷土料理を学ぶため14店舗で修業。帰国後、「リストランテ山崎」を経て、東京・青南山に「リストランテ アクアパッツァ」をオープン。
リストランテ アクアパッツァ
日髙シェフの基本のペペロンチーノ
【材料(1人前)】
・ニンニク……2片
・イタリアンパセリ……2本
・水……2L
・塩……20g
・パスタ……180g
・EXVオリーブオイル……50ml
・唐辛子(プーリア産)……小さじ1(みじん切り)
※唐辛子は国産でも代用可
・味つけ用の塩……少々
<こだわり食材>
●DE CECCO
厳選されたデュラム・セモリナと、山岳地域の天然水を使用したブロンズダイス製法のパスタ。太さ1.6mmのNo.11は、シンプルなオイルパスタやトマトソースとベストマッチ
●SALVAGNO エキストラバージンオリーブオイル
サルバーニョのエクストラバージンオリーブオイルを使用。有機栽培のオリーブの実から搾油された、まろやかで味わい豊かなオイル
1.ニンニクを入れて、火をつける
オリーブオイルにニンニクを入れたら、弱火にかける。フライパンを回しながら、ゆっくり均等に加熱するのがポイント。オイルにしっかりとニンニクの香りを入れる。ニンニクの水分が抜けて、泡が静かになり色がついてきたら、少し火を強くして、キツネ色になる手前まで色をつけて香ばしさを出す。
Chef’s Comment:ニンニクはみじん切りをオイル漬けにしたものを使用。今回のペペロンチーノはニンニクマシマシバージョンなので、たっぷり1人前2片くらい入れる。
2.フライパンを火から外し、ニンニクと油を濾す
キッチンペーパーを敷いたザルとボウルを重ねておき、(2)を入れ、ニンニクとオイルを濾す。
Chef’s Comment:これ以上フライパンの中にニンニクを入れておくと焦げてしまうので、いったんニンニクと油を分ける。こうすることで、ちょうどよい色のニンニクとニンニクの香りが移ったオイルをそれぞれ別々に引き続き使うことができる。
3.油をしっかり切って、カリッとした食感に
オイルと分けたニンニクをザルからキッチンペーパーを敷いたバットに移す。こうすることでニンニクから余分なオイルが抜けてカリッとした食感になる。
4.パスタをゆでる
パスタの太さは好みでOK。今回は1.6mmの軽いソースに合う細めのパスタを使用。
Chef’s Comment:塩もこだわればキリがないので、そこそこおいしいと思える塩であればなんでも構わない。ボイルするときの塩は、お店ではメキシコの原塩を使っている。
5.オイルを戻し、唐辛子とパセリを入れる
(3)で取り分けたオイルをフライパンに戻し、プーリア産唐辛子のみじん切りを加える。焦がさないように火から外したままよく混ぜる。さらに粗みじん切りにしたイタリアンパセリを入れて混ぜる。
6.ゆで汁を加え、オイルと混ぜる
パスタをゆでている鍋からゆで汁をレードル半量取って、(5)のフライパンに入れる。
Chef’s Comment:硬めにゆで上げたパスタと絡めるため、少しゆで汁を入れる。乳化の必要はない。
7.ゆで上がったパスタを加え、味を調える
ゆで上がったパスタはよく水気を切ってから(6)に入れる。パスタとソースをさっと和える。パスタを味見してみて塩気が薄いようなら、塩を少々加える。
8.盛り付ける
皿に盛り付け、フライパンに残ったソースをかけてから、最後に(3)のニンニクをたっぷりのせて完成。
※本書では、日髙シェフのアレンジレシピとして「オイルサーディンのペペロンチーノ」を紹介しています。
ペペロンチーノは修業時代の思い出の味
普段着のTシャツみたいなもの
ペペロンチーノと言えば、いちばんお金がかからなくて、お腹いっぱいになるパスタ。食べていても飽きがこないから、修業時代にいつも作って食べていました。当時、仕事が終わって終電で帰ると、コンビニなんかないから、家にあるもので食べようってなったときに、スパゲッティとニンニク、唐辛子とオリーブオイル、たまに贅沢にオイルサーディンを入れるっていうのが夜食の定番でしたね。
それ以外の思い出といえば、イタリア修業時代に「エノテカ・ピンキオーリ」に入ってから、初めてまかないを作ってみろと言われて、「よし、得意のアーリオ・オーリオを作ろう」と、ニンニクと唐辛子を使っていつものように作ったんです。しかし、それを一口食べた途端、全員がこれ(親指を下に向けるジェスチャー)。自分は自信満々で作ったのに「ニンニクが臭い」「辛い」と盛大なダメ出しを食らってしまいました。後で聞いたら、フィレンツェの人はニンニクをあまり食べず、どちらかというと香りだけ楽しむっていうのがわかった。苦い思い出ですが、はっきり文化の違いを感じました。
そもそもイタリアでは、ニンニクをきかせた料理が少ない。北イタリアのバーニャカウダは、冬の農作業の合間に体を温めるためにニンニクをしっかりきかせて食べるけど、南のほうに行くとニンニクを使う料理はあるけど日本人ほどたっぷり使わない。イタリアから帰ってきてから、日本のスタッフに、「イタリアはこうだった」と伝えても、日本にはニンニクが好きなお客様が多いので、みんなニンニクをいっぱい入れるんですよ。「RISTORANTE “CANOVIANO”(リストランテ カノビアーノ)」の植竹隆政シェフのように、ニンニクも唐辛子も使わない、と宣言しているのは特別ですよね。
「リストランテ アクアパッツア」を開店してから約30年経ちましたが、自分は変わっていないけど、世の中のほうが変わったなと思います。当時は、タケノコとかゴボウを使ったイタリアンは邪道と言われたけれど、今は日本の旬の食材を使うのはメジャーになっている。イタリアの北から南へと巡って感じたのは、その土地の旬のものをシンプルに生かすのがイタリア料理だということ。そして、自分は日本人だから日本の旬を生かした食材を使っていこうと。だから僕の店は最初から日本の旬の食材がテーマだった。自分の考えていたことは間違いではなかったなと思います。
ペペロンチーノは、加減ができるミニマムな素材で作れるし、いろいろな食材を足せるし、日本人が大好きなパスタですよね。あるものでさっと作っていい料理なので、食材へのこだわりはそれほどないけれど、オイルで食べるパスタなので、フレッシュでおいしいエクストラバージンオリーブオイルを使っています。唐辛子は、今回使ったのはプーリア産ですが、甘味も辛味も強いので重宝していて、種もそのまま入れています。パスタの太さについては、その日の好みで。フェデリーニみたいな細麺でもいいし、太めのものを硬めにゆでてもおいしいし。パセリも入れても入れなくてもいい。香りを出すならフレッシュなもので。最近様々な理由でペペロンチーノが注目されていますが、僕にとっては、極日常のもの、例えるなら「普段着のTシャツ」みたいなものかな。「今日は長そでにしようかな」「ちょっと上着を羽織ろうかな」とかいろいろ気分次第でアレンジできるところもいいですよね。
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俺のペペロンチーノ 鉄人シェフ18人が作る基本&アレンジレシピ
監修/Chef Ropia
登場シェフ/落合 務、小川洋行、奥田政行、小倉知巳、片岡 護、Chef Ropia、神保佳永、鈴木弥平、濱崎龍一、
日髙良実、ファビオ、山田宏巳、山根大助、弓削啓太、大西哲也、関 斉寛、山野辺 仁、坂井宏行
玄光社 2,420円