小さな海や川をいくつも再現している水族館。“いきもの”たちが、日々健やかに過ごせるよう尽力する飼育員の一日を追う。
水族館は小さな海の集まりだ。「マクセル アクアパーク品川」も例外ではなく、メインの展示である「ワンダーチューブ」のほか、大小合わせて90以上の水槽という海があり、約350種・2万近い魚類や海獣が棲息する。
「水族館は、野性下では観察しづらい1日に必要なエサの量や繁殖期の行動などを観察、調査する研究機関です。また、海の環境と私たちの生活が密接であることに気づいてもらう場でもあります」と、飼育員の萬倫一さんが話す。そのため、約60 名近いスタッフの業務は想像以上に多岐にわたる。
来場者が海を育てる
エサやりは重要な役割のひとつ。開始時間の11時30分に向けて水槽内外の清掃や目視による観察、エ
サの準備など、様々な業務を、飼育員は展示スペース〜水槽内〜バックヤード間を回遊魚のごとく移
動し、業務をこなしていく。
ほかに水質検査や繁殖活動中の魚の行動やふ化した稚魚の観察、データの集計や日誌での報告とい
った仕事もある。一日中、緻密な作業の連続だが、萬さんは「命を預かる仕事ですから当然です」と
胸を張る。「お客さまがどう喜んでいるのか、展示の前でどのような行動をとるのか……。新しい展
示企画を考えるうえで、来館された方の観察も重要です」
水族館は癒しと楽しさを与えるだけでなく、日々の飼育と調査を重ね、種の保全や繁殖に関わり、い
きものの未来を繋げている。
7:30 出社
7:40 水槽の点検、清掃
水槽や設備などの異常がないか、酸素の供給が正常になされているかなどを目視で確認する。また「一番綺麗な状態で見てほしいので」と水槽の内外の汚れも入念に確認する。
8:00 水質検査
水は水族館の命。魚類は八丈島沖の海水と人工海水を、海獣類は人工海水を使い分ける。水の交換は毎日数%ごとに行なう。排泄物に含まれるアンモニアなどは濾過機で浄化する。
8:30 ナンヨウマンタの健康診断
自然光が差し込む水槽で飼育される、全長4m近いナンヨウマンタなどの大型魚類は、体表の傷の有無や体調の確認のため触診検査をする。治療が必要な場合は、水中で採血をすることもある。
10:00 サンゴの点検、観察
サンゴの存在も水族館には欠かせない。館をあげて石垣島周辺のサンゴの再生活動を行なうほか、人工海水を使用したサンゴの産卵に成功。サンゴの魅力や課題について発信している。
11:00 サメの卵の観察
産卵したイヌザメの卵を回収し、別の水槽に移してふ化を待つ。その経緯やふ化後の成長の経緯を報告し、知識の共有や環境の向上に繋げることも飼育員の大事な仕事のひとつだ。
11:30 ナンヨウマンタ、 ノコギリエイの餌やり
ナンヨウマンタにはオキアミ、そのほかのエイにはサバやアジなどの青魚を一尾まるまる与える。エサは1日に1〜2回。時間は、毎日決まっていて、食べる量などからも体調をチェック。
12:00 昼休憩
手の空いた人から昼の休憩に。午後からの業務に備える時間でもある。
13:30 解説ツアーの対応
エサの準備をする調餌室や、それを保管する冷凍庫など、ふだんは見ることができない裏側や飼育員の仕事を紹介する解説ツアーを実施することも。
14:00 繁殖させたクマノミを展示スペースに移動
いきものの繁殖やライフサイクルに興味を持ってもらいたいと、昨年新設した「リトルライフ」。繁殖した1㎝にも満たない魚類やクラゲの水槽が並ぶ、人気コーナーだ。
16:00 日報の記述、論文のまとめなど
成長過程や体調など、担当するいきものの様子を詳しく記録し、各担当の飼育員間で情報を共有する。そこから次の展示計画が生まれ、研究の下地にもなることも。
17:00 お疲れさまでした
マクセル アクアパーク品川
東京都港区高輪4-10-30(品川プリンスホテル内)
電話:03・5421・1111
開館時間:10時〜20時(変更あり)
休館日:無休
入館料:2500円
交通:JR山手線ほか品川駅高輪口から徒歩約2分
取材・文/武内しんじ 撮影/泉 健太
※この記事は『サライ』本誌2024年5月号より転載しました。