誰だって、人生の大きな転機の時には不安でいっぱいになり、気分が沈む日が多くなるものです。退職の前後も例外ではなく、人生の下り坂の気分を味わい、自分が年老いてしまったと悲観的になることもあるでしょう。
しかし、それは新しい生活に適応する通過儀礼のようなもの。気分を上手にコントロールして、明るいリタイア生活に漕ぎ出しましょう。
では、どうすれば沈んだ気分をコントロールできるのでしょうか? そこで今回は、米国カリフォルニア州立大学・心理学部教授のケネス・S・シュルツ氏監修の『リタイアの心理学 定年の後をしあわせに生きる』(日経ナショナル ジオグラフィック社)を参考に、具体的な方法をご紹介していきましょう。
■1:心地良い香りを嗅ぐ
気持ちがふさぐ日は、脳によい刺激を取り入れて活性化を図ること。それには3つのポイントがあります。
まず一つ目は、良い香りで嗅いで嗅覚から脳を刺激すること。優しく心地よい香りは、楽しい記憶や感情を呼び起こしてくれます。匂いの情報を処理する脳の嗅球は、情動や連想学習をつかさどる大脳辺縁系に属しているため、脳と香りは密接な関わりがあるのです。
■2:音楽や人の声を聞く
音楽や人の声(会話、ラジオ、CDなど)を聴くと、快楽ホルモンともいわれるドーパミンの分泌が盛んになり、自然と気分が良くなるのだそうです。
■3:自然光に合わせて生活する
昼と夜が入れ替わる毎日のサイクルにあわせて、視床下部と松果体から体内時計を調節するメラトニンが分泌されますが、このメラトニンには、不安を和らげたり、鬱々した気分を晴らしてくれる効果があるのです。
朝起きたら、朝日を浴びる、散歩をして夕日を眺めるというように、自然光の中での生活を意識してみましょう。逆に人工の光、とくにスマホやPC画面の強い光は、睡眠と覚醒のリズムを崩すことがありますので、できるだけ避けましょう。
■4:大きな目標を5つ設定する
引退後は、何か具体的な目標があると不安を乗り越えやすくなります。そのために作家のジョン・P・ストレルキー氏が提唱するのは「ビッグ・ファイブ」というリストをつく ること。
引退してからぜひ実現させたい目標を5つ設定し、それに向かって長い期間で見通しを立てていきます。「国内47都道府県をまわる」、「小説を書く」といった一過性の目標のほか、「新しい事業を育てる」「妻や子どもと思い出をつくる」など継続的な目標も入れておきましょう。
ビッグ・ファイブのような目標があれば、引退生活では、幸せか幸せではないのかは自分の基準で決めてよいということが実感できます。また気持ちが落ち込んだときにも、まだ達成すべきことがあるのだと自分を奮いたたせることができますね。
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以上、退職前後に気分が落ち込んだ時に、試したいことを4つご紹介しました。
引退前後は安堵感や自由を得る喜びとともに、相反する感情、不安や恐れを感じやすいとされます。これまで一つの会社で勤め、あまり人生に変化がなかった人はなおさら負の感情に戸惑うことでしょう。
そういう時も五感を刺激し、中長期的な大きな目標を立てることで、不安や恐れを紛らわし、暗い気分をやり過ごすことができるようになります。ぜひ参考にしてみてください。
【参考文献】
『リタイアの心理学 定年の後をしあわせに生きる』
(S・シュルツ監修、藤井留美 訳、日経ナショナル ジオグラフィック社)
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/product/16/010500050/
文/庄司真紀