リタイア後に人生を見つめた時に、驚くほど長い時間が残っていることに気づくでしょう。ひとくくりにシニアと言われても実際、65歳と80歳は大きく違います。若い時と同じもの、変わっていくもの。マイナス面だけでなく、知性や幸福度は高まり、人生の実りの時を迎えます。
米国カリフォルニア州立大学・心理学部教授のケネス・S・シュルツ氏監修の『リタイアの心理学 定年の後をしあわせに生きる』(日経ナショナル ジオグラフィック社)を参考に、知っておきたい各年代の特徴をまとめてご紹介しましょう。
■1:50~60代は「実りの20年」
社会学者のデイビッド・ガープは、50代を「折り返しの10年」と呼びましたが、30〜40代の時より50〜60代のほうが、幸福を強く感じるという調査結果があります。なぜなら、中年期の前半に抱えていたさまざまなストレスから解放されるのがこの時期だから。キャリアの目標を実現した達成感と、子供を独り立ちさせた安堵感があるからです。
カリフォルニア大学バークリー校でロバート・レベンソンらが行った研究では、50~60代は知的能力と認知能力にいっそう磨きがかかり、仕事や人間関係で良い結果が得られるといいます。
現役を退くこの時期は、集中力と決断力を発揮して、長年あたためていた構想を実行に移すときでもあります。
■2:70代は「黄金の10年」
子育てや親の介護といった困難を乗り越えた安心感もあり、幸福感は70代に入ってからも上昇し続けます。生活の自由度が増し、夫婦関係も心地よく良い意味でお互いを頼りにする年代です。
老いを実感する瞬間はたまにあるかもしれませんが、日常のほとんどのことは支障なくこなしていけます。その上で「円熟期」に入った手応えがあれば、老化に対する漠然とした不安に悩むことはないでしょう。
祖父母としての務めを果たしたり、ボランティア活動をするなど、目的意識を持つことが、この世代の幸福感につながります。
■3:80代は「新たな10年」
豊かな人生経験に裏打ちされたあなたの意見や考えに、多くの人が耳を傾けるでしょう。あらゆる場面で意見を求められるかもしれません。
その反面、若い時に加齢への偏見が根付いている人は、自らの偏見が自分へ向かい、老人性うつ病のリスクが高まることもあります。
その他、一般的な幸福度は健康の問題に直結し、健康管理ができる環境や信頼できる医師がいるかどうかで生活の満足感が左右されます。
健やかに長生きする秘訣は、自分のライフスタイルに目を配り、見通しを持つことです。刺激を求めたり、人づきあいや親密な触れあいを持つことで、余生はいっそう楽しいものになります。
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以上、『リタイアの心理学 定年の後をしあわせに生きる』から、リタイア以降の各年代ごとの特徴をご紹介しました。
加齢の研究では、身体能力など能力低下を調べるものが多くなりますが、数値化しにくい分野、直感力や経験値、幸福度ではまた別の見方ができそうです。前の年代にとらわれず、今の年代にあった生き方を見つめてみませんか。
【参考文献】
『リタイアの心理学 定年の後をしあわせに生きる』
(S・シュルツ監修、藤井留美 訳、日経ナショナル ジオグラフィック社)
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/product/16/010500050/
文/庄司真紀