九州と同じほどの面積で、東シナ海の南に位置する台湾は、大きな魅力を秘めた旅先だ。特に開府400年に沸く台南に注目。多様な文化を探訪する旅に出かけたい。
今も銅像が守られ慰霊祭が催される
台湾総督府は統治の当初から、産業インフラの整備を積極的に進めた。これらは戦後も台湾の発展を支え、特に農業においては、用水路の整備、熱心な品種改良、加えて台湾の人々の勤勉さもあり、期待を大きく上回る結果を出した。
中でも欠かせないのが、嘉南大圳(かなんたいしゅう)である。設計者は八田與一技師。「圳」とは農業用水路のことで、網の目のように張り巡らされた水路により、台湾西部の平野が一大農業地帯に変わった。
水源となったのは烏山頭ダムで、八田技師の銅像が残されている。また、放水口の脇には紀念館があるほか、技師が暮らした官舎群も復元され、紀念公園になっている。
嘉南大圳の完成は1930年4月10日。給水路は延べ1万km、排水路は6000kmにおよぶ大工事だった。烏山頭ダムの堰堤(えんてい)の長さは1273mにおよび、高さは56m。実に10年の歳月を要した一大工事だった。
八田技師はダム建設に際し、セミ・ハイドロリックフィル工法を採用した。これは玉石や粘土、礫、石塊などを主に用い、コンクリートは堰堤の中央部に用いるというもの。烏山頭ダムの場合、規模が大きく、前例がなかった。
烏山頭ダム
住所:官田区嘉南里68-2号
電話:06・6982103
営業時間:8時~17時30分
定休日:無休
料金:200元
今も敬愛される日本人技師
銅像はダム竣工後の1931年に設けられた。八田技師は実直な人柄で、使命感に篤い人物だった。上から人を見おろすような像を嫌がったとされ、座像となった。腰を下ろし、仕事着姿で物思いにふける像は確かに珍しい。戦後、日本統治時代の碑や像は破壊されたため倉庫に隠されていたが、現在はダムのシンボルとして親しまれている。
技師たちが暮らした官舎群は修復され、「八田與一紀念園区」となっている。八田は工員たちの労働や生活環境を整えることを重視し、テニスコートや屋外映画館などが設けられた。現在、官舎四棟が復元され、日台交流の場として機能している。
八田技師の旧居
住所:官田区嘉南里66号
営業時間:9時~17時30分
定休日:水曜
料金:200元(ダムと共通)
解説 片倉佳史さん(台湾在住作家・54歳)
●1元(NT$)は約5.2円(両替時・2023年11月20日現在)
※この記事は『サライ』本誌2024年1月号別冊付録より転載しました。
【完全保存版 別冊付録】台湾の古都「台南」を旅する