公的年金は給付要件別に老齢年金・障害年金・遺族年金の3種類に区分され、これらはさらに、国民年金と厚生年金(旧共済組合を含む)に分けることができます。これまで国民年金に加入されてきた方は国民年金のみ、厚生年金保険に加入されてきた方は、国民年金に加えて厚生年金も受給することが可能です。
国民年金受給という「一階」を通ることで、初めて厚生年金受給という「二階」に辿り着くことになります。そこからさらに、企業年金、iDeCoに加入することができるため、年金制度は「三階建」と呼ばれることも。
今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た知識や経験に基づき、年金は何歳から払って何歳からもらえるのか、そして、どのようにもらうのがお得なのかご説明いたします。
目次
年金は何歳から払って何歳でもらえる?
年金の繰り上げ・繰り下げとは?
年金は何歳からもらうのが得?
まとめ
年金は何歳から払って何歳でもらえる?
まずは年金の加入と受給条件についてお話しいたします。
加入について
年金は20歳になったら、日本年金機構から『基礎年金番号通知書』等の、年金加入に関する書類が届きます。手続きをして保険料を納付することで、「一階部分(国民年金)」へ加入することになります。大学生など一定の方については、保険料の最初の納付のタイミングが変わることはありますが、年金制度への加入年齢は原則として20歳です。
受給について
国民年金の受給は、受給資格期間が10年以上ある場合に、原則として65歳から受給することができます。厚生年金は、国民年金の受給資格のある方で、厚生年金の加入期間がある場合に受給が可能です。これらの年金は、支給を早くする「繰り上げ受給」、支給を遅くする「繰り下げ受給」があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
年金の繰り上げ・繰り下げとは?
年金の繰り上げ・繰り下げについて説明いたします。
年金の繰り上げ受給と、主なメリット・デメリット
年金の受給は原則として65歳からですが、繰り上げ受給は60歳から年金を受給することが可能です。注意点として、国民年金と厚生年金は別々に受給できないため、国民年金だけ繰り上げる、といったことはできません。また、年金の受給を繰り上げた場合、その期間に応じて受給額が減額されることになります。
具体的には、以下の計算式の通りです。
【年金の減額計算(昭和37年4月2日以降お生まれの方の場合)】
減額率 = 0.4% × 請求月から65歳に達する日の前月までの月数
60歳の方の場合、0.4% × 5年 × 12か月 = 24%減額です。
繰り上げ受給のメリットとしては「早く年金を受給できる」、ということが挙げられ、主なデメリットとして、下記項目などが挙げられます。
・請求した後は取消ができない
・減額率は一度決定されると生涯続く
・国民年金の任意加入や保険料の追納ができない
・障害年金や寡婦年金を受け取れなくなり、遺族厚生年金と同時に受給することもできない
年金の繰り下げ受給と、主なメリット・デメリット
年金の受給開始を繰り下げる(遅くする)場合、75歳まで可能です。国民年金と厚生年金の一方のみを繰り下げることも可能です。ただし、遺族年金や障害年金を受け取る権利がある場合には、国民年金の繰り下げができなくなります。
年金の受給を繰り下げた場合、その期間に応じて受給額が増額されることになります。具体的には、下記算式で計算することが可能です。
【年金の増額計算(昭和27年4月1日以前生まれの場合は70歳まで】
増額率 = 0.7% × 65歳に達した月から繰り下げ申し出をした月の前月までの月数
65歳の方が70歳まで繰り下げた場合、0.7% × 5年 × 12か月 = 42%増額です。
繰り下げ受給のメリットは、その増額率で、「増額率は一度決定されると生涯続く」ため、繰り下げてから長生きできれば効果は非常に大きいです。
主なデメリットとしては、下記項目ができなくなるといったことが挙げられ、さらに受給額が増えることで、所得税や住民税、社会保険料が発生する可能性もあります。
・早く亡くなると繰り下げの効果を得ることができなくなる
・加給年金(※1)・振替加算(※2)は増額の対象にならず、繰り下げ期間中はどちらも受給
(※1)加給年金 = 厚生年金の加入期間が20年以上ある方を対象とする制度。年金の対象者が65歳になる時点で生計を維持されている65歳未満の配偶者か、一定の条件の子供がいる場合に加算される。
(※2)振替加算=加給年金額の対象者になっている妻(夫)が65歳になると、それまで夫(妻)に支給されていた加給金額が打ち切られます。このとき妻(夫)が老齢基礎年金を受ける場合は、一定の基準により妻(夫)自身の老齢基礎年金の額に加算がされる。
年金は何歳からもらうのが得?
いくつかのケースをご紹介しますが、年金の加入期間などで前提条件が異なることがあります。あくまで参考とお考えください。
単身者の場合
単身者の場合では、上記の加給年金や振替加算は対象外です。仕事があり、生活費や健康に不安がないのであれば、繰り下げ受給を選択した方が有利に働くことが多いでしょう。なお、仕事の収入次第では、厚生年金が支給停止になる可能性も。支給停止額を事前に確認し、繰り下げ受給の検討をする必要があります。
配偶者がいる場合
年下の配偶者がいて加給年金の対象であれば、厚生年金を繰り下げ受給すると、加給年金が受け取れなくなります。配偶者が年上で国民年金を受け取っている場合でも、厚生年金の繰り下げにより振替加算が受け取れません。この場合は繰り下げをしないか、繰り下げをする際は国民年金のみとし、生活資金の確保を図るのが良いでしょう。
まとめ
前述の通り、年金は20歳から加入して65歳から受給できる、というのが原則的な制度です。年金の繰り上げ・繰り下げ制度を利用すると年金受給額を調整できますが、それぞれにメリットとデメリットがあります。そのため、ご自身の健康状況、経済状況や老後資金の多寡などを、総合的に判断する必要があるでしょう。
65歳以降は年金受給のみの生活、あるいは仕事の量を調整して、仕事を続けながら年金を受給する方が圧倒的に多いようです。年金についての理解を深め、ご自身にとってベストな方法をご自身で見極められるよう、是非とも関心を持っていただければと思います。
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com)