取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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2023年7月、千葉県市川市で発生した親族殺人の裁判員裁判判決公判が行われた。事件の概要は2021年に男(32歳)が母親(63歳)と共謀し、伯母(64歳・当時)と、元夫(65歳・当時)を金銭トラブルの果てに殺害したのだ。
裁判長は「犯行態様が残忍で殺人事件の中でも悪質性が高い」として求刑通り無期懲役の判決を言い渡す。週刊誌の続報によると、男は実家、伯母、伯母の元夫の家に忍び込み、宝飾品や美術品をフリマアプリで売っていたという。
珠子さん(63歳)は、「あの事件の報道を見て、“ウチの嫁と似ている!”と思いました」と語る。いったい、どういうことなのだろうか。
夫とともに大反対し、絶縁も考えた息子の嫁
珠子さんは商社勤務をしていた夫(65歳)と23区内郊外の自宅マンションで二人暮らしだ。子供は息子(36歳)と娘(33歳)のふたり。お金にゆとりのある「奥様」といった雰囲気だが、このままでは老後が立ち行かなくなると、最近パートを始めたという。
「シニア世代は貴重な働き手と言われているので、すぐに決まるかと思ったらとんでもない! 未経験の求人はほとんどなく、保育園や児童館では年齢で落とされ、ファストフードや学生食堂、レストランも落とされ、10社目にやっと今の清掃の会社に採用されたのです。時給は1200円。月7万円くらいは稼いでおり、マンションの管理費と固定資産税の資金にしています」
珠子さんは「自分の持ち家なのに税金と管理費を払うってホントにばかげている」と続けた。加えて、管理組合や草むしりや夏祭りなどの自治イベントも負担が重いという。
「マンションは買うものじゃなかった。賃貸に住んでいるお友達はなんだかんだと幸せそうなんですよ」
そういえば、珠子さん夫は大手商社で相当な地位にいたはずだ。ニューヨーク駐在もしたエリートで、かつてはスペインにオリーブ畑を持っているという話を聞いたこともある。各国の要人とも交流があっただろう。
「オリーブ畑も別荘もとっくに売り払いましたよ。あんなの若くてお金があって元気だから楽しめるんです。車の運転も大儀で、海外に行く飛行機代もままならない今は、不要です。ウチのパパさん(夫)がいろんな方と交際していたのは、あの会社の社員だったから。大きなお金が動いていましたからね。でも今はただのおじさん。パパさんも“俺も働かないとな”と言っていますが、仕事なんか全然ないんですよ」
悠々自適だったはずの珠子さんが、清掃の仕事をするようになった背景には、4年前の息子の結婚が大きい。結婚するまで自慢の息子だったが、今は絶縁したいのだという。その原因は嫁(36歳)の存在だ。
「最初に“この人と結婚する”って息子が嫁を連れてきたときは、とんでもない女だと直感して、夫とともに大反対。私たちはいろんな国で、いろんな方と会ってきたので、人を見る目はある。嫁を見たときに、何とも嫌な感じがしたんです。疫病神というか、餓鬼というか……」
美しく整った顔は明らかに美容整形の手が入っている。豊満な胸や尻も明らかに人工的だった。
「息子は中高一貫の男子校から、理工系の国立大学に入り、プラント系の会社で活躍しています。女性に免疫がないからわからなかったんでしょうね。パパさんに至っては“あの女と結婚したら親子の縁を切る”と言ったのに、結婚してしまった」
【狂言妊娠で金を引っ張られた……次のページに続きます】