取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970年代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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娘が豹変した25歳のときに、何があったのだろうか
東京都港区に住む愛子さん(仮名・65歳)は、この10年間、娘(35歳)に手を焼いている。それまでずっといい子だった娘が、反抗したきっかけはなんなのだろうか。
【その1はこちら】
「娘がおかしくなったのは、4回目の転職のときかな、娘が弱音を吐いたから、『大企業は新卒じゃないと入りにくいんだから、内定が出ていたメーカーに、私の言う通りに入っていればよかったのに』と言ったら、キレ始めたんです」
それまでも、21時の門限を破ったり、行き先を告げずに出かけることもあったという。
「門限と言うと、過保護みたいに言われるけれど、そうではないんです。21時以降に帰るときは、事前に言うとか、連絡をするとか、そういうことです。こっちだって夕飯を作って待っているのだから、当たり前でしょ? お風呂のスイッチも切らなくちゃならないし。家族なんだから、当然です。夫もずっとそうしています」
あるとき、深夜に帰ってきた娘に対して、連絡もせずに何をしていたのか、と愛子さんは問いかける。娘からは酒の匂いがした。その瞬間、愛子さんはカッとなって手を上げてしまった。
すると娘は玄関の花瓶を床にたたきつけた。愛子さんが驚いて大声を上げると、家の壁を叩いたり、食器を割ったりして手が付けられなくなった。恐れをなした愛子さんは警察に通報してしまう。
「ご近所さんに知られてしまって、みっともないったらありゃしない。夫に連絡したら“よくあることだ。俺は出張で今、大阪なんだ”と言う。夫はホントに私たちに興味がないんです。その日から、娘が私に対して、“オマエのせいで不幸になった”と言うようになりました」
娘が25歳から35歳までのこの10年間で、ホントにいろいろなことがあったという。
「一人暮らしをしたいというからさせてやったんです。すると寂しいからと言って、1か月で帰ってきました。門限をやめたり、娘の世話をするのをやめたり、交換日記をやめたり……。私自身が社会人大学に入って、心理学講座をとったのも、この頃です」
愛子さんの最終学歴は洋裁の専門学校だ。大学の心理学はさっぱりわからなかったという。娘との関係は一進一退で、発作的に爆発することもあれば、数か月間口も利かなかったりと、不安定な状態が続いた。
【幼い頃の娘の写真を見て泣く ……次ページに続きます】