取材・文/沢木文

「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。

専業主婦でお菓子教室を主宰している紫乃さん(仮名・53歳)は、幼なじみであり、高校3年間、毎日一緒におり、召使いのように扱っていた千鶴子さん(53歳)との関係に、複雑な感情を持っている。

【これまでの経緯は前編で】

お菓子教室でも始めてみればいいじゃない?

32歳で再会してから、友人としてのつきあいが始まった。高校時代、教室の女王として崇められていた紫乃さんと、それに仕える召使いだった千鶴子さん。

女王の美貌は年齢とともに衰え、ままならぬ子育てや夫婦仲にも悩まされた。一方、召使いだった千鶴子さんは、独身のまま、仕事中心に生きていた。

「老後のためにも結婚したらいいよ、今が結婚のチャンスだよ、これを逃したらもう一生子供は産めないよ……千鶴子に会うとそんなことを繰り返して言っていました」

そこには、千鶴子さんの幸せをやっかむ気持ちがあった。しょっちゅう海外に出かけており、外国人タレントの通訳などもしていた。

「半年に1回程度、ランチをしつつ、千鶴子の話を聞くと、私が大ファンのハリウッドスターと仕事をしており、その人からボールペンやキーケースをもらっていたんです。私が羨ましがると、“いいよ、あげるよ”と興味なさそうにくれるんです」

うらやましいと思うと同時に、悔しく惨めな気持ちにもなった。紫乃さんの夫はリストラをされており、家計も苦しくなっていた。子供たちも勉強ができず、中学受験も失敗した。

「あれは私の40歳の誕生日、絶望的な気持ちになっている時に、千鶴子に連絡をしたんです。こんなグチはママ友には言えませんから。千鶴子はウチにおいでよといってくれた」

指定されたのは赤坂のマンション。ベルを押すと、金髪の超イケメンがバスローブ姿で出てきた。

「千鶴子の恋人だって。彼女は私のことだけを思っているから独身なのかと思っていたら、12歳も年下の若くて美しい男性と同棲している。彼は肌が弱いらしく、シャワー後の彼の背中に保湿クリームを塗っている。その私も握ったことがある、白くてふっくらとした手が妙に色っぽかった。独身だから水仕事をしていないんですよ。それでも顔はおブスだった。“なんでこんな容姿の千鶴子がいいの!?”と思いました。“結婚しちゃいなよ”と言ったら、“ふふふ”と笑って流された」

【「なんで千鶴子ばかりが幸せになるの?」……次のページに続きます】

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