私の方がキレイだったのに、なぜおブスの千鶴子ばかりが幸せになるのか
その日、他にもショックなことがあった。赤坂のマンションは賃貸ではなく千鶴子さんが購入したことを知ったから。なにもかもが逆転してしまったのだ。
「よく考えると、連絡は私ばかりしており、千鶴子からは来ない。その後、SNSが普及して、千鶴子の投稿を見るように。そこには、誰かの受勲パーティに出席したとか、ナントカシェフに特別メニューを作ってもらったとかが書いてある。私も知っている著名人が千鶴子の投稿にコメントを入れていて、全然違う世界を生きていることがわかったんです。私の方がキレイなのに、なぜおブスの千鶴子ばかりが幸せになるのか。そう思いながらも、千鶴子の投稿からは目が離せない。彼女が何かを上げるたびに、私もコメントを入れていました」
そう思って、紫乃さんは一念発起し、自宅でお菓子教室を開くことにした。しかし、全く生徒が来ない。
「ママ友が遊びに来てくれることはありましたけれどね。夫からは、動画を見ながら作れる時代なんだから誰も習わないだろうと言われて悔しかった。一時期はお菓子を作って手作り市などに出し、SNSに上げていましたが、いつの間にかやめてしまっていました」
そんなある日、見知らぬ女性からSNSのメッセージが届く。それは「千鶴子さんの社歴30周年パーティをやるのですが、高校時代からの親友の紫乃さんにケーキと引菓子をお願いしたい」という依頼だった。
「その女性は、私のSNSのコメントを見て連絡をしてきたんです。確かに私は“高校時代の親友”と書き込みをしていたので。しかし、依頼されたケーキや引菓子は、私のお菓子の腕では絶対に作れない」
そんな難易度の高いものを、なぜ彼女は依頼してきたのだろうか。
「宣伝のために、海外のスイーツの写真を上げていたからです。それを彼女は私が作ったと勘違いしていたんです」
その依頼があってから2週間、紫乃さんはまだ返事をしていない。
「コロナの患者が爆発的に広がっているので、中止になってほしいし、そうなると思っているんですけれどね。もう、この際、アカウントを削除してしまおうかとも思っています。すると、千鶴子とつながる線が消えてしまう。ホントに悩ましいところです。私にとって、千鶴子は自慢の親友なので」
ここ数年は、親友といっても、SNSのコメントでやり取りする程度だという。
専業主婦になるか、働き続けるか……専業主婦コースを選ぶことは、億単位の損失だという意見もある。その一方で、専業主婦になることは、家族と一緒に過ごす時間があり、仕事による心身の負担がなく幸福だという人もいる。
どちらが幸福かは、自分で感じるしかないが、目の前にあることを受け入れるかどうかが大きいのではないか。着実に我が道を行くか、他人の意見や世間体を主軸に生きるか。このわずかな差が大きな差になっていくのが、人生なのかもしれない。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。