文/鈴木拓也
“圧倒的自由”が得られる大人の趣味
コロナ禍でアウトドアを楽しむ人は一時激減したが、「ソロキャンプ」にとっては追い風となり、2020年度の「新語・流行語大賞」に選ばれるほどであった。
ソロキャンプとは、1人でキャンプをすること。コロナ禍の前から愛好者は増えていたが、三密を避けつつアウトドアを楽しめると、大きなブームになった。統計的には20代男性が多いが、年代の裾野は広がりを見せている。
ソロキャンプの魅力は、どこにあるのだろうか?
「“圧倒的自由”が得られる」点にあると答えるのは、芸人のヒロシさんだ。
「ソロキャンプで人生が変わった」というヒロシさんが、キャンプを始めたのは小学生の頃。当初は、子どもたちだけで、近隣の山野でキャンプをしていたという。長じて、芸人仲間でつどってキャンプを開始。やがて、ソロキャンプにのめり込むようになった。
いまや、この世界の第一人者であるヒロシさんは著書『大人のソロキャンプ入門』(SBクリエイティブ)で、その魅力を熱く語る。少々長くなるが引用しよう。
ひとりでキャンプに行くことを想像してみてください。
湖が目の前にある湖畔キャンプ場にするか、木が茂る林間キャンプ場にするか、それとも川の側にある河原キャンプ場がいいか。どんなキャンプ場を選ぶかは、あなた次第ですよね。もちろん、「フリスビーしたいから原っぱがいい!」と駄々をこねてくる人はいません。
持ち物も、あなたが使うもの、食べたいものだけを持っていけばいいんです。「今日はテントじゃなくてハンモックで泊まりたいな」と思ったらテントを持っていかなくてもいいし、「昼も夜も翌朝もカップ麺で済ませよう」と思ったら、食材はカップラーメン三つでもいいんです。「せっかくのキャンプだから、もっとキャンプらしい食事じゃなきゃダメだ!」と横槍を入れてくる人はいませんから。(本書より)
これこそ“圧倒的自由”。ふだん職場や家庭で窮屈な思いをしている人なら、心惹かれる体験ではないか。ヒロシさんも、「最近、理不尽なことが多いな」と思ったら、ソロキャンプでその気持ちを解消することをすすめる。
大概の小物は100円ショップで買える
気持ちが高まったところで、本書のなかでヒロシさんは、ソロキャンプに必要な道具について解説をする。
基本的にファミリーキャンプと一緒で、テントに寝袋にマット、あとは調理道具で十分。だが、この調理道具が悩みどころかもしれない。
まず、「家のフライパンを使うのは恥ずかしい」などと気おくれする必要は一切なし。こだわって有名アウトドア用品メーカーの道具を揃えてもかまわないが、既に自宅にあるものを持参してもまったくOKだそうだ。なにしろ1人。誰にも気兼ねする必要はない。
さらに、100円ショップの活用がすすめられている。固形燃料、五徳、飯盒、メスティン、焼き網などなど。すべて税抜き100円で手に入るわけでなく、300円や500円のものもあるが、これらが全部そうした店で買えるのだから、行ってみる価値はある。
また、調理道具から広げてキャンプギア全般については、「中古を買うのも一つの手」だとも。
ヒロシさん自身、時々ヤフオクをチェックするほどで、思わぬ掘り出し物が期待できる。最近だと、リサイクルショップも品揃えが充実しているそうだ。ただし、こうした中古品は、「傷や欠陥を見抜く」力量が必要になるので、その点は注意したい。
焚き火にもコツがある
これはソロに限らないが、キャンプの醍醐味はなんといっても焚き火。これなくしてキャンプにあらず、というくらい重要な要素かもしれない。
ヒロシさんも、本書でまる1章割いて焚き火について語り倒している。
まったくの初心者であれば、ライター1本で焚き火ができると、考えるかもしれない。しかし、そうは問屋が卸さずで、着火からしてこれが意外と難しい。
第一のコツは、ライターでもマッチでも、火は「上に向かう」ものであることを認識することだ。それを理解すれば、固形着火剤に火を上から近づけても着火しにくい理由がわかる。
あくまで僕のやり方だと思って聞いてほしいんですが、火のついたマッチやライターを片手で持ったら、もう片方の手で固形着火剤を持って、上からそうっと炎に近づけます。(本書より)
こうやって着火させる場合、ヒロシさんは安全のため燃えにくい革の手袋をしている。着火を確認したら、焚火台に置き、木炭を足していく。
焚き火の要となる薪も、「最初は買ったほうがいいでしょうね」と、ヒロシさんはアドバイスする。燃えやすい乾いた薪は、現場ではそうそう落ちていないからだ。理由は、キャンプ場の管理人や先客が先に拾っているからだそうで。だから、ホームセンターなどであらかじめ購入しておく。そして、この薪をバトニング(棒で刃物の背をたたく薪割り)によって細断しておく。こうしてできた細い薪も、かなり細いものから太めのものまで異なるサイズとなるので、一番細い薪から順に燃やしていけば失敗が少ない。
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こんな風に、本書は初心ソロキャンパーとの対話という形をとりながら、話が進んでいく。ボリュームは結構あるが、ヒロシさんの蘊蓄は嫌味がなく、どこまでも実践的で好感がもてる。今年の夏にソロキャンプデビューを考えているなら、読んでおきたい1冊だ。
【今日の教養を高める1冊】
『大人のソロキャンプ入門』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。