取材・文/沢木文
仕事、そして男としての引退を意識する“アラウンド還暦”の男性。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻も子供もいる彼らの、秘めた恋を紹介する。
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定年退職その日に、10年ぶりにかかってきた電話
今回、お話を伺った、藤堂俊雄さん(仮名・62歳)は、有名機械メーカーの役員として、定年退職を迎えた。2年前、20歳年下の元女性部下との特別な関係について語ってくれた。
大きな問題がなく、誠実にリストラを遂行したことは評価され、俊雄さんは役員候補になる。
「候補になったら先は早いよね。リストラしたのが50歳、役員になったのは55歳……それからはあっという間だった気がする。あっという間に手柄は過去になり、毎日の仕事が進んでいった感じ。定年退職の半年前から、会社を辞めたらあれもしよう、これもしようとワクワクしたものだけれど、3か月前からブルーになった」
明日から行く場所がない、社会から求められていないという疎外感。
「アレはつらいよね。ウチの会社は特に華々しいことをする文化がないから、退職の日は花束などもなく、あっさり定時で退職。することもないから、好きな映画でも見ようかと歩いていると、見知らぬ番号から電話があり、とったら彼女だった。『予定がなければこれから飲みませんか?』と言うんだ。キツネにつままれたような気持ちで、指定する銀座のビストロに行ったよ」
彼女は40歳になっていたが、10年前とほとんど変わらなかったという。
「彼女は女優の田中裕子さんに似ていて、すっきりしていて優しい雰囲気が以前のままだった。少しシワが増えた感じがしたけれど、それだからこそ、色っぽさも増している。『お久しぶりです』という声にハリがあって、いいキャリアを重ねていると感じた」
彼女は、俊雄さんが紹介した転職先で順調に出世をしていた。
「あのリストラがあったから、今があると感謝の言葉を述べられて、本当にうれしかった。定年退職の日のプレゼントのようにも感じたな。彼女の同期の男性もあのときに早期退職し、私の大学の同級生がやっているベンチャー企業に転職したから、彼もいるのかと思ったら、彼女だけだったことに、なんだかゾクッとしたんだよね。それまでは、あらぬ誤解をかけられては困ると思い、女性と2人きりで飲むことなんてなかったから」
【今まで浮気の経験は2人、いずれも同級生だった。次ページに続きます】