関係が近いからこそ、実態が見えなくなる家族の問題。親は高齢化し、子や孫は成長して何らかの闇を抱えていく。愛憎が交差する関係だからこそ、核心が見えない。探偵・山村佳子は「ここ数年、肉親を対象とした調査が激増しています」と語る。この連載では、探偵調査でわかった「家族の真実」について、紹介していく。
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今回の依頼者・洋一さん(仮名・66歳)は「今、自分でも本当におかしくなっていることがわかっていて、苦しい。本当のことが知りたいんです」と思い詰めた様子で、私たちの事務所にいらっしゃいました。
貧困家庭の子供に勉強を教えるボランティア
その様子から、お子さんに何かがあったのだと感じました。今、親子間のコミュニケーションがうまくいっていない人が多く、子供の素行調査を私たちに依頼するケースが多いのです。
しかし、落ち着かれるのを見守っていると、「この女性を調べてください」と、40代くらいの女性の写真を見せてくださいました。
「この人は、本当に苦労人で、僕が助けないと親子共倒れになる。援助をしたいんです」と言います。経緯を聞くと、洋一さんが参加しているボランティア活動で知り合った女性だとか。
「去年、定年になって、びっくりするくらいヒマになってしまったんです。コロナだからというよりは、仕事ばかりしていたので趣味もなく、会いたい人もいない。妻は自分の趣味や社交で忙しく、私と一緒に出かけたがらない。そこで、地域のボランティアに参加することにしたのです」
洋一さんは仕事一筋の人生を歩み、大手企業の役員にまで上り詰めています。名門大学を卒業しており、学生時代には家庭教師のアルバイトもしていたとのこと。
「仕事の間も、若い奴らの能力が下がっていることをずっと感じていました。日本の国力が下がっていることがわかっていたのです。時間ができた今、自分の人生を教育にささげたいと思って、教育ボランティアに申し込みました。これは、貧困家庭の子供たちに勉強を教える活動で、来た子供の進度に合わせて授業をするのです」
先生として登録しているのは20人以上。いつも来る人は限られており。子供とシニア層の居場所になっているようなスクールだという。しかし、会社員時代、多くの人にかしずかれていた洋一さんは、なかなかグループになじめなかった。
「元教員の奴が偉そうにしている。社会人になってすぐに“先生、先生”と持ち上げられて、ノルマもなく、部下を育てることもなくそのまま定年になっている。こんなところにいても意味がないと思った時に、舞子さん(仮名・38歳)に出会ったのです」
【グループ内で浮いていた私を、仲間とつなげてくれた。次ページに続きます】