
「相続税の申告」というと、「どのように申告したらいいのか?」と不安になる人もいるでしょう。
実際には、相続税の申告が必要な人は全体の1割程度といわれ、ほとんどの相続では申告が不要です。一方で、申告が必要なのに気づかずに放置すると、加算税や利子税がかかることもあり、「知らなかった」ではすまされません。
まず、「申告が必要なのか」の判断を明確にし、さらに必要な場合の手続きや、プロへの依頼基準まで、迷うことがないようにしておくことが大切です。 100歳社会を笑顔で過ごすためのライフプラン、LIFEBOOK(R)を提唱する独立系ファイナンシャルプランナー藤原未来がわかりやすく解説します。
相続税の申告とは? 期限・対象・必要な手続きの基本
相続税の申告とは、被相続人(亡くなった方)の財産を受け継ぐ際に、その相続財産が一定額を超える場合に行なう税務手続きのことです。
申告が必要かどうかは、相続財産の総額が「基礎控除額」を超えるかどうかで決まります。基礎控除額は以下の式で算出します。
3,000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、配偶者と子1人の家庭なら
3,000万円+600万円×2=4,200万円が基準になります。
この金額を超えるなら申告が必要ですが、反対にいえば 4,200万円以下であれば申告の必要はありません(※特例や控除次第で「超えていても申告不要」になるケースもあります)。
相続税がかかる人・かからない人|要否の見分け方
申告要否の判断は、次の3ステップで整理すると簡単です。
ステップ1:財産の総額を大まかに把握する
主な財産は以下の通りです。
・不動産(土地・建物)
・預貯金
・有価証券
・生命保険金
・死亡退職金
・貸付金
・未収金
特に土地の評価額と生命保険金は、見落としやすいポイントです。

ステップ2:債務・葬儀費用を差し引く
借入金・未払い税金・葬儀費用は差し引くことができます。
ステップ3:控除・特例を考慮する
配偶者の税額軽減(1億6,000万円または法定相続分のどちらか大きい方までは相続税はかからない)が使えるか、小規模宅地等の特例(最大80%減額)を適用できるかで大きく変わります。
これらを踏まえ、相続財産の総額が「基礎控除額を超える可能性があるか」が最初の判断基準になります。
相続税の申告期限は10か月|延長・例外はある?
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内 です。
例:4月2日に死亡→通常の場合、翌年2月2日が申告期限
<延長は原則不可>
相続税申告の期限は、法律上、特別な事情があっても「延長する制度がほぼない」点が特徴です。ただし、例外として
・申告期限までに相続人が確定できない
・遺産分割がまとまらない(ただし、未分割のまま申告は可能)
・災害等により申告が困難である
などの場合は個別に救済されることがあります。

「誰が申告するのか」分からない時の判断基準
相続税は「相続人全員で連帯して」納税義務を負います。しかし実務上は、次の基準で「まとめ役」が自然と決まることが多いです。
・実際に財産を多く受け取る人
・手続きに慣れている人
・被相続人と同居し、財産状況を把握している人
・遺産分割協議の代表者に選ばれた人
最終的には相続人全員の確認を取りながら、1人が申告書をまとめて提出するのが一般的です。
まず確認! 相続税の申告が必要かを判断する方法
相続税の申告は「難しい」といわれますが、国税庁が用意しているツールを使えば、かなり正確に「必要か不要か」を判定できます。
「申告要否判定コーナー」の使い方と注意点
国税庁サイトの「相続税の申告要否判定コーナー国税庁ホームページ相続税の申告要否判定コーナー|国税庁」は、財産額を入力するだけで「申告が必要/不要」を簡単に確認できます。
<使い方のポイント>
1.相続人の人数を入力
2.財産の種類ごとに概算を入力
3.債務や葬式費用を入力
4.控除・特例の有無を選択
5.判定結果を確認
<注意点>
・土地の評価は「路線価方式」など専門的な計算が必要 → 概算でもOK
・死亡保険金・死亡退職金は「みなし相続財産」なので忘れず入力
・特例は使える可能性が高いが、誤って「使えない」と判断しがち
「大まかに申告が必要かどうかを知りたい」段階では非常に便利なツールです。

「申告要否検討表」の記入例と活用のコツ
税理士がよく使う「申告要否検討表」を使うと、財産全体を一覧で整理できます。
<活用のコツ>
1.不動産は「固定資産税評価額」をまず記入
2.生命保険金は受取人別に記入
3.銀行口座は複数行をまとめず、1行ずつ記載
4.評価方法が不明でも“メモ欄”に現状を書いておく
最終的に税理士へ相談する時にも、この表があるとやり取りがスムーズです。
「不要」な場合でも確認しておくべきこととは?
申告が不要であっても、次の点は必ずチェックしましょう。
・配偶者控除の適用判断は正しいか
・小規模宅地等の特例が適用できないか
・不動産の名義変更など、相続税以外の手続きが残っていないか
特に土地の評価額が高いケースでは、基礎控除を超えるかどうか微妙なことが多く、自己判断だけでは不安が残ります。念のため、専門家に「現地評価だけ」を依頼する人も少なくありません。
相続税の申告書の書き方|初めてでも安心の手順ガイド
申告が必要となった場合でも、流れを把握しておくと落ち着いて手続きすることができます。
必要な書類リストと取得方法
相続税の申告で準備する主な書類は次のとおりです。
・被相続人の戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍(市区町村)
・相続人の戸籍謄本(市区町村)
・相続人の印鑑証明書(市区町村)
・不動産の登記事項証明書(法務局)
・固定資産税評価証明書(市区町村)
・預金の残高証明書(各金融機関)
・証券会社の取引残高報告書・保有資産一覧
・生命保険金の支払証明書(保険会社)
・葬儀費用の領収書
・相続関係説明図(自作可)
特に戸籍関係の書類は、被相続人の本籍地が変わっていると複数の自治体から取り寄せる必要があり、1〜2週間かかることもあります。申告期限の10か月は意外と短いため、まずは戸籍収集から早めに着手すると良いでしょう。
国税庁の記入例をもとに解説|書類の添付も忘れずに
国税庁が公開している、相続税申告書の記入例(相続税の申告書等の様式一覧(令和6年分用)|国税庁のページ内にリンクあり)は非常に丁寧で、以下の点がわかりやすく記載されています。
・申告書のどこに何を書くか
・どの計算表を添付するか
・書類ごとの対応関係
財産ごとに必要な書類が変わります。たとえば「自宅の土地を相続した場合は小規模宅地等の特例の明細書」「生命保険金がある場合は保険金の明細書」など、財産に対応した書類をセットで提出するイメージです。

押印や提出先、提出のタイミングまで完全フォロー
申告書の提出についてまとめてみます。
提出先:被相続人の住所地を管轄する税務署
提出方法:税務署に持参・郵送・e-Taxが選択可能
相続人全員の押印:不要(申告書作成者の押印のみ必要)
納税方法:金融機関で納税・口座振替・クレジットカードで納税も可能
期限ギリギリで提出し、添付書類を忘れるケースが非常に多いため、早めにチェックリストを作っておくと安心です。申告は期限内に余裕をもって行ないましょう。
自分で申告できる? プロに頼むべき? 迷った時の判断基準
「自力でやるか、税理士に依頼するか」は相続の規模と状況によって変わります。
「自分でできる」ケースとは|体験談やブログで見えてくる傾向
ネット上の体験談を見ても、次のようなケースであれば自力申告しやすい傾向があります。
・不動産が1件のみ、預貯金と保険が少額
・相続人が少なく、争いがない
・特例をほとんど使わない
・財産額が基礎控除額をわずかに超える程度
特に「土地の評価が単純な場合」は自力での申告も可能です。
税理士に依頼する場合の相場と選び方
一般的な相場は以下の通りです。
・基本報酬:20〜40万円(財産額による)
・加算:土地1筆ごとに5〜15万円
・特例の適用・非上場株式など:別途加算
選ぶ際は次のポイントを重視してください。
・相続税をメインに扱う事務所か
・土地評価の経験が豊富か
・料金体系が明確か
・申告後の税務調査対応まで含まれるか
報酬がかかっても依頼した方がいい人の特徴
次にあげる項目に該当する人は、税理士に依頼をすることをおすすめします。
・土地が複数ある、共有名義が多い
・相続人どうしの関係が複雑
・特例を使うことが多い
・財産額が大きく税務調査の可能性がある
・期限が迫っていて時間がない
相続財産が複雑であればあるほど、依頼する価値は十分あります。
申告ミスを防ぐ! チェックシートで最終確認を
申告書が完成したら、「ミス防止チェック」が最も重要な工程になります。
国税庁のチェックシートを使った確認方法
国税庁は「相続税申告書のチェックシート(相続税|国税庁のページ内にリンクあり)」を公開しており、次の点が確認できます。
・書類は全て揃っているか
・明細書の添付漏れはないか
・計算の整合性は取れているか
・誤記・未記入の箇所はないか
プリントして紙でチェックすると、ミスを大幅に防ぐことができます。
「漏れが多い添付書類」と「見落とされがちな項目」
よく漏れる項目は以下の通りです。
・生命保険金の支払調書
・通帳コピー(過去の出入金明細が必要)
・債務の証明書
・小規模宅地の特例の添付書類
また、財産の「名義貸し」「家族名義の預金」など、税務署が特に注目する項目は丁寧に説明を添えることが大切です。

提出前にもう一度確認したい3つのポイント
申告書の提出前には、以下の3つのポイントについて確認しましょう。
・遺産分割協議書は添付したか?
・特例の適用要件を満たしていると説明できるか?
・相続人全員が内容を把握しているか?
この3つを押さえておくと、後日のトラブル防止につながります。
まとめ
相続税の申告は「期限が10か月」と短く、さらに「必要かどうか」の判断が非常に難しい手続きです。しかし、国税庁のツールやチェックシートを使えば、大まかな方向性は自分で判断できます。
自分で進めるのか、専門家へ相談するのかについては早めに判断することが大切です。
さまざまな金融商品が出回っている世の中だけに、あなたの味方になって守ってくれる相談相手を持つことが必要な時代になっています。ご自身のライフプランを考える時には、生命保険や金融商品の販売をせずに中立的な立場からコンサルティングに徹する独立系のファイナンシャルプランナーへの相談をお勧めします。
●構成・編集/京都メディアライン(HP:https://kyotomedialine.com FB:https://www.facebook.com/kyotomedialine/)
●取材協力/藤原未来(ふじわらみき)

株式会社SMILELIFE project 代表取締役、1級ファイナンシャルプランニング技能士。2017年9月株式会社SMILELIFE projectを設立。100歳社会の到来を前提とした個人向けトータルライフプランニングサービス「LIFEBOOK®サービス」をスタート。米国モデルをベースとした最先端のFPノウハウとアドバイザートレーニングプログラムを用い、金融・保険商品を販売しないコンサルティングフィーに特化した独立フランチャイズアドバイザー制度を確立することにより、「日本人の新しい働き方、新しい生き方」をプロデュースすることを事業の目的とする。
株式会社SMILELIFE project(https://www.smilelife-project.com)











