朝食は自ら作る80歳。ラジオ体操の前に下ごしらえを終え、数ある常備菜を少しずつつまむのが朝の楽しみ、元気の源だ。
【小林一夫さんの定番・朝めし自慢】
東京・湯島にある『お茶の水おりがみ会館』(旧・ゆしまの小林)。そのルーツは、安政5年(1858)まで遡る。『ゆしまの小林』4代目で、現・館長の小林一夫さんが語る。
「初代・幸助は、上野寛永寺の仕事などを手がけた経師でした。やがて和紙全般の加工技術を習得し、この地で“染め紙業”を始めたのです。それが『ゆしまの小林』の始まりで、お陰さまで160年の歴史を刻んでまいりました」
明治に入ると、文部省の要請で世界で初めて製品としての折り紙を製造販売。初代文部大臣の森有礼が、ドイツの教育学者、フリードリッヒ・フレーベルの教育要領をもとに、折り紙を教育に採用したからだった。
昭和に入ると、玩具業界が折り紙を“おもちゃ”として発売。これが世界中に普及するきっかけとなり、昭和47年には『お茶の水おりがみ会館』をオープンした。
小林さんが本格的に折り紙を始めたのは、30代に入った頃からだ。
「門前の小僧で自然に覚えました。折り紙は親から子へ、手から手へと伝えられたもの。最近は“創作”とかいって、作品に名前を入れる人もいるようですが、折り紙は誰のものでもない。日本人の心に根ざした伝承遊びなのです」
ラジオ体操、仮眠、折り紙
小林さんの朝は早い。午前4時起床。朝食の下ごしらえに入る。
「朝は僕の担当。まず米を磨いで炊飯器にセットし、味噌汁は味噌を溶く直前まで仕上げておく。それから散歩がてら、ラジオ体操が行なわれている神田明神まで出かけるのが日課です。ラジオ体操は初詣客のいる正月を除いて、雨の日も欠かしません」
朝食は塩鮭と納豆を欠かさず、さらに小鉢が並ぶのが定番の食卓。幾種類もの常備菜を少しずつ、好みでつまむのが朝の楽しみだ。
朝食後と昼食後は30分ずつの仮眠。加えて、朝のラジオ体操と週2~3回の徒歩での買い出しが健康の秘訣だが、それより何より老化防止に効果があるのが折り紙だ。
「僕は“指の森林浴”って呼んでいるけど、折り紙を折るという動作が脳に良い刺激を与え、色彩感覚や想像力、集中力も養ってくれるんだよ」
日本の文化遺産である折り紙を伝承するために、一般開放へ
鶴に代表される伝承折り紙。けれど、『お茶の水おりがみ会館』に一歩足を踏み入れると、そんなイメージは一変するかもしれない。美しい和紙で折られた人形や花々が迎えてくれるからだ。
「折り紙は古く神事を起源とし、礼法や遊戯から現代の折り紙へ。さらには未来へと繋がる医療や建築、航空技術といった折り紙工学に至るまで、人類の歴史とともに進化を遂げてきました。先人たちが残してくれたこの折り紙を日本の文化遺産として守り、伝え、育てていくのが私どもの使命です。だからこそ誰にでも気軽に楽しんでもらいたいと、おりがみ会館として開放することにしたのです」
と、館長は語る。
1階は作品展示、中2階はギャラリーで国内外の秀逸な紙作品が楽しめる。3階は2000点以上の和紙や小物、道具類などが揃うショップ。4階はおりがみ会館の心臓部ともいえる染め紙工房、5~6階は教室で折り紙講座(要予約)を開催している。
足が第二の心臓なら、指先は第二の脳。折って楽しい折り紙で、健康長寿を保ちたい。
※この記事は『サライ』本誌2022年1月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )