文/柿川鮎子

動物愛護法が改正されました。2019年6月に改正され、2022年6月までに段階的に施行されていきますが、実際にどこがどう変わったのか? また、私たちの生活にどう影響しているのか? 改定のポイントについて、ひびき動物病院院長岡田響先生に改めて整理して教えていただきました。

動愛法改定の3つのポイント

――先生、動物に関する法律が変わったということですが、私たちに関わる点について教えてください。

岡田 改定された法律の名前は「動物の愛護及び管理に関する法律」で、通称「動愛法」です。

この法律は大体5年ごとに更新され、今回の改正は令和元年に決まったものが、経過期間として少しずつ施行されています。現在すでに改定が進んでいるものと、まだこれからのものがあります。

今年、変わってきたのは適正飼育強化の明確化で、主に動物取扱業の事業者(ペットショップやブリーダーなど動物を扱う事業者)の適正化と不適切な取り扱いへの対応の強化が挙げられます。遵守基準が細かく示されたものなどがありますが、たくさんあるので、わかりやすいところを3つ紹介します。

1.生後56日以下の子犬・子猫の販売禁止

岡田 幼齢犬猫の販売制限が定められました。「8週齢規制」と呼ばれるものです。8週とは生後56日のことで、8週に満たない子犬や子猫の販売は禁止されます。これまでは7週(生後49日)だったので、1週間延長されることになりました。

8週齢まで母犬及び兄弟犬と共に生活させることで、ペットの社会性が身についたり、母犬から免疫力を得られることで感染症にかかりにくいという、科学的なエビデンスがあります。特に流通過程での感染症を減少させることが明らかになっています。

おうちに来る前に幼い子が風邪をひいたり病気になってしまったりするのはかわいそうですよね。1週間の違いですが、親元で親兄弟と過ごすことで、病気を予防することと、遊んで学んで社会性を学ぶきっかけを作ることで、問題行動も起こりにくくなるといわれています。

この規制はペット先進国のドイツやアメリカと同じ基準になっていて、日本も先進国のレベルまで引き上げられました。例外として、「天然記念物の保存」という点から、柴犬、秋田犬、北海道犬、甲斐犬、紀州犬、四国犬は、従来通り7週齢(生後49日)となっています。

2.飼育頭数や繁殖回数の制限

岡田 パピーミル(子犬工場)などに代表される、狭いところに複数頭を入れっぱなしで、きちんと世話をしないようないわゆる「不良ブリーダー」をなくすために、不適切な取り扱いに対する対応が強化(明確化)されました。

例えば、従業員一人当たりの飼育数の上限などが設定されました。大雑把に表にまとめると以下の通りです。

――ショップやブリーダーさんの話で、飼い主さんには関係ありませんね?

岡田 現在のところ、主に事業者の話になっています。しかし、売買や預かり、貸与など、対価を得て営利行為をする場合は1頭でも事業者となり、届け出やこれらの法律を遵守する必要があります。無断で実施すると無登録営業となり違法行為となります。

この法律の話題とはちょっとズレますが、飼育頭数は普通の飼い主さんにも関係があります。動物の種類にもよりますが、犬やネコの場合、一般の飼い主さんでも10頭を超える頭数を飼育される場合は、営利でも非営利でも、福祉保健センターに届け出が必要になる場合があります。特に譲渡を伴う場合は、福祉保健センターにご確認ください。

3.飼育環境の改善

岡田 他にも飼育スペース、ゲージなどの大きさ(縦横高さ、体調、体高別)、温度計と湿度計の設置、獣医師による年1回以上の健康診断、帝王切開は獣医が実施、光環境の管理、ケージ床は金網禁止、6時間毎の(展示されない)休憩時間を作る、などが設定されました。

他に、寝床や休息場所となるケージの大きさ、運動スペースの確保や運動時間も決められました。

■虐待が厳罰化した

岡田 虐待の罰則強化もこの飼育環境の改善に関連する改正ポイントです。動物をむやみに殺したり傷つけたりする行為や、動物の虐待や遺棄に関しては、従来よりも罰則が厳しくなりました。

最近、ペットショップ崩壊の報道がありました。動物愛護法が整備されたこともあってか、狭くて不衛生な環境にある繁殖施設の取り締りが、やっと進めやすくなった表現があるのかもしれません(個人的想像です)。

しかし、この法律は取り締り自体が目的ではなく、“人と動物の共生する社会の実現を図ることを目的とされている”ことを理解する必要があります。

法令の冒頭には、『動物は命があるものであることを鑑み、人と動物の共生に配慮し、習性を考慮して飼育や給餌、健康管理などが適正に取り扱いができるような環境の確保を行う』とあります。テレビの報道などで、防護服を着た人が大勢で動物を保護している姿を見ると、想像を絶する環境がいまだに存在しているようで、とても残念に思いました。

■法律施行で高騰したペットの価格

――ペットたちをとりまく環境が向上することは、とても喜ばしいことだと思いますが、それにより何か変化がありましたか?

岡田 法律だけのせいだと言いきれない面もありますが、ペットの価格が高騰しています。

ペットの管理を充実させるためにはコストも必要です。法律に則った繁殖・販売を行うためには、一頭当たりの飼育費用が高くなり、それが価格に反映されています。

裏を返すと、適切な環境を確保できない事業者が減ったともいえそうですが、供給側が減ってしまった結果、以前よりも売値は上がってしまっています。他にも働きかた改革や飼育費用の高騰といった、社会的な背景も関係して、ペットの価格が上がっているようです。

私としてはひとりでも多くの人にペットと過ごす幸せな暮らしを実現させて欲しいと思っています。出会いはペットショップの他にも動物愛護センターなどの自治体や様々な愛護団体、動物病院などからの譲渡なども増えています。

獣医師や動物病院スタッフも、そういう相談は嬉しいと思うヒトが多いはずです。現実的に譲渡の相談ができない病院もありますが、動物病院にも「ペットとの出会いを探している」と声をかけてみて欲しいです。病気に悩んだ方に同じ思いをさせないようにとか、生活スタイルと合うペットであるかとか、何かアドバイスがあるはずです。ペットとはいろいろな出会いがあることを、考慮に入れて欲しいとアドバイスしています。

マイクロチップの装着義務化

――ほかに飼い主さんが注意しなければならない改正ポイントはありますか?

岡田 ペットショップなどで販売される犬や猫にはマイクロチップの装着が義務化されます。これは個体識別管理という面から大事なものですが、迷子や震災にあってしまったときなどのために生涯役に立つものです。

9月といえば本来は防災訓練などをやっている時期です。大きな災害時には行方不明になるペットの問題が深刻です。政府は今後、約70%の割合で南海トラフ地震が発生するという予測を発表しています。災害時にペットがいちはやく飼い主さんのもとへ帰ることができるように、マイクロチップの装着をお勧めしたいと思います。

――ありがとうございました。

長い間、日本人がペットを虐待しているという誤解があり、海外のブリーダーは優れた血統をもつペットを日本人に譲ってくれなかった歴史があります。しかし、日本でのペットの飼育環境が向上し、SNSで飼育の実態が明らかになり、さらに動愛法が見直されることで、こうした誤解は過去のものになりつつあります。

動愛法はいちど改定して終わりではありません、さらなる理想を求めて、今後の改定を見守り続けて行きましょう。


取材協力/岡田響さん(ひびき動物病院院長)
神奈川県横浜市磯子区洋光台6丁目2−17 南洋光ビル1F
電話:045-832-0390
http://www.hibiki-ah.com/

文/柿川鮎子 明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

 

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