取材・文/沢木文
仕事、そして男としての引退を意識する“アラウンド還暦”の男性。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻も子供もいる彼らの、秘めた恋を紹介する。
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運命の女性に会ってから、高橋さんはどう関係を深めていったのか……
支配的な性格をしている妻が亡くなり、61歳から“自分の楽しいこと”を探す旅に出た高橋健司さん(仮名・63歳)の『最後の恋』。女性経験がほとんどない高橋さんがどのように関係を深めていったのかを伺った。
「38歳のときに、好きな女性がいたんだ。相手は取引先の女性で、何回か食事に行った。彼女は英語が堪能ですごく仕事ができた。俺はできる女性が好きなんだよね。三つ指ついて、しとやかについてくるような女性は好きじゃない。このときも、向うから飲みに誘ってきたし、俺のことを憎からず思っていたんだろうけれど、知らない間に音信不通になってしまった。あのとき彼女は独身だったし、俺も女房にバレるのが怖かった。のめり込むのも怖かったよね。味気ない結婚生活だったから彼女を唯一の救いのようにして崇めてしまっていたし。でも、俺から誘えば深い仲になったんじゃないかとずっと思っていたんだ。そんな後悔から、“自分から行かなくちゃだめだ”と思った」
デートに誘ったのは、高橋さんからだ。SNSのメッセンジャー機能を使った。文面を見せてもらうと“先日、日本酒の会でお目にかかりました高橋健司です。あのとき一緒に飲んだお酒がとても美味しかった。今度、二人でお食事でもいかがですか。●●(苗字)さんは、お寿司もお好きだと伺ったので、いいお店を予約しておきます」とある。完璧な誘いの文章だ。女性に慣れていないというのは本当だろうか。
「実はこれ、娘が考えたんだよ。私がSNSの画面を開いてずっと見てたら、知らぬ間に娘が後ろにいて、“パパ、この女の人デートに誘いたいんでしょ、パパの誘い方じゃダメだよ”って文面を考えてくれた。今の子はオープンだよね。かつてのように“パパ、キモい”と言われるかと思ったら、応援してくれるんだもん。結局、すぐにOKの返事をもらって、彼女が行きたいと言っていた予約困難なお寿司屋さんで会うことになった。そのお店は、僕がなじみにしていて、裏ルートから予約を入れてくれるんだよ。そして、当日の服まで娘が考えてくれたんだ」
スーツじゃだめだと言うお嬢さんが用意したのは、水色のギンガムチェックのシャツに、紺のサマージャケット、ユニクロで購入した新品のチノパンだった。水色の靴下に茶色のローファー。バッグは持たずに行けと言ったそう。
「娘と一緒に何本もズボンを試着して、ジャストサイズを選び、丈も細かく調整したよ。俺たちの世代は、ちょっとブカッとした大きなサイズを買ってしまうのだが、それではダメだと。男をカッコよく見せるのは体に合った服だと。着てみると確かにカッコいいんだよ。俺だと思えないくらい」
【若くないと、不衛生な店には入れない。次ページに続きます】