あなたにもし、万が一のことが起こった場合、その時残された家族は果たしてスムーズに遺産を引き継ぐことができるでしょうか? 相続財産にはプラスの財産だけでなく、マイナスの財産もあります。どこにどのような財産がどれだけあるのか…、意外と自分自身でも把握していないケースも多いものです。
もしも、家族がプラスの財産よりマイナスの財産が多いことを知らずに相続してしまったら、借金を支払う義務を引き継ぐことに…。そんなことにならないように、アクティブシニアのライフサポートを行う株式会社ユメコム代表の橋本珠美が、豊富な経験や事例をもとにアドバイスを申し上げます。
この記事では「相続放棄」について解説していきます。
目次
「相続放棄」とは?
法定相続人の範囲と順位
「相続放棄」するのはどんな時?
「相続放棄」の手続きの仕方
「相続放棄」した場合の法定相続人は?
「相続放棄」しても受け取れる財産とは?
まとめ
「相続放棄」とは?
相続には、以下のように「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つの方法があります。
・単純承認:プラスの財産もマイナスの財産も全財産を無条件に引き継ぐこと
・限定承認:相続を受けた人がプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ方法
・相続放棄:プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないという方法
被相続人(死亡した人のこと)に借金があった時など、マイナスの財産があった場合にはその財産も含めて相続することになってしまいます。マイナスの財産の存在が分かっている場合には、すべての財産を相続放棄するという選択が可能になりますが、被相続人に借金があったことが相続後に発覚した場合は、原則、負債を含めすべての財産の相続をしたものとみなされます(例外的に認められるケースを除く)。
相続放棄・限定承認は相続の開始があったことを知った日から3か月以内に手続きをすることが必要です。
法定相続人の範囲と順位
法定相続人の範囲について、ご紹介いたします。順位もありますので、あわせて把握しておきましょう。
・配偶者→ 必ず相続人になる
・血族 → 優先順位が高い人が相続人になる
被相続人の配偶者は、どのような場合においても法定相続人になります。
優先順位が高い血族は以下の通りとなります。
第1順位 子または代襲相続人
第2順位 両親などの直系尊属
第3順位 兄弟姉妹または代襲相続人
「相続放棄」するのはどんな時?
「相続放棄」をするのは具体的にどんな場合でしょうか? 3つのケースをご紹介いたします。
【ケース1】兄弟に多額の負債があるとき
「私の兄は75歳で生涯独身、子もおりません。兄は現在入院しており私が面倒を見ています。兄に万が一のことがあった場合、両親はすでに他界しているので、私が法定相続人になります。しかし、兄は商売をしている関係で多額の借金があり、調べると資産を上回っています」
(アドバイス)
上記の場合、お兄さんの遺産を相続すると、借金を抱えてしまうことになるため注意しなければなりません。十分にお兄さんの遺産を調査し、負債があってもプラスの財産が上回る場合は相続したほうが得になります。
今回のケースの場合はお兄さんの資産や借金が明確であり、借金が資産を上回るため、相続放棄をする方が安心です。
【ケース2】争続(そうぞく)に巻き込まれたくないとき
「亡くなった兄弟の相続をすることになりました。ただ、兄弟が多く、遺産分割で揉めそうです。トラブルに巻き込まれたくありません」
(アドバイス)
相続問題から離脱することは可能です。遺産分割トラブルが予想できる場合、相続放棄をすることもひとつの手段になります。
【ケース3】遺産を他の人に譲りたいとき
「先日姉と同居していた父が亡くなりました。相続人は私と姉の2人です。父の遺産は不動産(実家)と少しの預貯金です。姉はずっと父の介護をしていること、そして現在父名義の実家に暮らしていることもあり、父の遺産はすべて姉に渡したいと思っています」
(アドバイス)
相続放棄をする場合、次順位にあたる相続人に必ず、その旨を伝えましょう。今回の場合、姉妹2人のみが相続人と分かっていますが、両親が再婚したりして、他に子供がいる場合も少なからずあります。
また、相続手続きは約2か月かかります。期限が迫る前に事前に相談しておくことをお勧めします。
「相続放棄」の手続きの仕方
相続放棄をする場合には、相続の開始があったことを知った日から3か月以内に被相続人の住所地の家庭裁判所に申述しなければなりません。何も手続きをしなかった場合、全財産を無条件に引き継ぐ単純承認になりますので注意が必要です。
「相続放棄」した場合の法定相続人は?
相続人が「相続放棄」をした際、他の相続人にはどのような影響があるのか気になりますよね。ここでは具体例を挙げながらご説明いたします。
(家族構成)父81歳、母76歳、長男50歳、次男45歳、長女41歳
このような家族構成で父が他界した場合、法定相続人は母、長男、次男、長女です。このうち、次男が相続放棄した場合、母、長男、長女が相続人となります。
相続人が相続放棄した場合、代襲相続により相続権が下の世代に移ることはありません。
上記の家族の場合、次男に子供がいたとしても、次男が相続放棄をすれば、その子供は代襲相続(相続人に代わり相続人の子などが相続する制度)の権利を失うことになります。民法939条でも、「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」と規定。相続放棄すればそもそも相続権自体が発生しないので、代襲相続も起こりません。
また同じように、被相続人が借金を残して亡くなった場合、相続人が相続放棄をしても、その下の世代に借金が引き継がれることはありません。
「相続放棄」しても受け取れる財産とは?
「相続放棄」をすると、相続財産のすべてを受け取ることができなくなりますが、生命保険金や死亡退職金などの「みなし相続財産」は相続放棄をしても取得可能です。
ただし、相続放棄をすると相続人とみなされなくなるため、生命保険や死亡退職金などの非課税枠が利用できません。
まとめ
「相続放棄」について具体例を交えながら解説してきましたが、いかがでしたでしょうか? もし、自分自身に万が一のことが起こった場合、家族に迷惑をかけないためにも、自分にはどのような財産がどこにどれだけあるのかということを、一覧表にしておくことが大切かもしれませんね。
●構成・編集/末原美裕・貝阿彌俊彦(京都メディアライン・http://kyotomedialine.com)
●取材協力/橋本 珠美(はしもと たまみ)
2001年4月、株式会社ユメコムを起ち上げ、介護・福祉の法人マーケットを中心に、誰もが高齢社会を安心して過ごすためのコンサルティングを始める。
また「高齢者と高齢者を抱える現役世代」のための相談窓口「シニアサポートデスク」「ワーク&ケアヘルプライン」を運営し、高齢者やそのご家族の幅広いお悩み(介護・相続・すまいなど)にお応えしている。
相談窓口の事例と自身の経験(ダブルケア)を取り入れたセミナー活動は好評を得ている。
株式会社ユメコム(https://www.yumecom.com)
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。
個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)