取材・文/沢木文
仕事、そして男としての引退を意識する“アラウンド還暦”の男性。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻も子供もいる彼らの、秘めた恋を紹介する。
今回、お話を伺ったのは西村博司さん(仮名・63歳)。工学系の国立大学卒業後、機械メーカーの技術者として勤務し、60歳で定年退職した。帰宅したその日、見合い結婚で30年間連れ添った妻から離婚届を突き付けられた。ギャンブルや浮気をしていたわけではない。妻と一人娘に声を荒げたり、手を上げたこともない。
妻は別の男性とずっと交際してきた
それどころか、妻や娘の望むままに、私立の中高一貫高校に進学させ、ピアノやバレエなど望み通りの習い事をさせていた。西村さんが妻に理由を聞くと、「あなたは自分勝手でつまらない。全然私のことを愛してくれない」と答えられたという。
「もともと、長いものに巻かれる性格かもしれない。妻から離婚を切り出されても『ああそうですか』くらいしか思わなかったし、『明日からメシの支度は俺がするのか』と思ったくらい。さらに、妻は別の男性とずっと交際してきたと言われた。だけれど、全く気が付かなかった」
言われるままに財産分与に応じ、西村さんの手元に残されたのは、2000万円の貯金と都内の高級住宅地のはずれにある親の代から住む築50年の一軒家だった。
【一人暮らしを始めたときは、寂しかった。次ページに続きます】