取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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東京都八王子市に住む秋元奈津江さん(仮名・70歳)は、35歳の娘がコロナ禍で非正規公務員を雇い止めになり、1月の緊急事態宣言後に、実家に戻ってきた。夫婦水入らずの生活と、年金と臨時収入があったときに贅沢をする生活がなくなったという。
【その1はこちら】
娘は1日中自室にこもっており、要介護状態だという
非正規公務員を雇い止めになった娘は、向上心が強く、厳しい条件の相談に対応すればするほど、自分が成長できるようでうれしかったという。
「給料が少なくても、自分がやりたい仕事ができている喜びと、上がっていくスキルに生きがいを感じていた。それが雇い止めになるってことは“あなたは不要です”と宣言されるようなもの。それでポキンと折れちゃった。今は一日中部屋で泣いていたり、寝たり、起きたり……2週間に1回、私と一緒に心療内科の先生のところに通っているけれど、社会復帰はまだ先でしょうね。そもそも娘にもプライドがあるでしょう。それを考えると、働ける就職先はない。まさか前期高齢者の私達が、娘の介護をするなんて思いませんでした」
娘が実家にいれば、なんだかんだとお金がかかる。それに、奈津江さんも夫も失業中だ。
「家族そろって非正規だから保証がないんです(笑)。そうやって笑っていられるのも今のうちですよね。夫は維持費がかかるクルマを手放しました。高齢者の交通事故が問題になっている背景もありましたが、やはりクルマがないと不便。終活がてら、フリマアプリでモノを売ったり、いろんなことをしていますが、働いて得るお金に比べれば微々たるもの」
2度目の緊急事態宣言が落とした生活の影は大きい。
「12月頭に、1月から飲食店の厨房で働くことが決まっていたんですが、緊急事態宣言で、その店の開店が無期延期になってしまったんです。とはいえ、切られたのではなく、待機状態なんです。“解除になったから来てください”と言われれば、行く。でも会社からは“別の就職が決まったらそれはそれでいいです”と言われている。どっちなの?って感じ」
聞けば、このことについて、何の保証もなければ、公的支援も受けていない。これは、最近話題の「実質的失業者」ではないか。
実質的失業者の存在が浮き彫りになったのは、野村総合研究所が20年12月に行った、パートやアルバイトで働く20~59歳の女性5万5889人の就労実態の調査結果だ。ここから推計すると、仕事が5割以上減り、休業手当も受け取っていない「実質的失業者」は90万人に及ぶという。収入が大幅に減ったにも関わらず、非正規ゆえに公的な支援を受けていないので、統計上に現れなくなってしまったのだという。
【緊急事態宣言は、余裕がない人を直撃していると感じている……。次ページに続きます】