文/山下隆盛
「山下式ずぼらプラン」で、手間ひまをかけずに家をアンチエイジング
リスクの高い劣化を見抜くのがインスペクション
「長く住み続けられる家」を保つためには、綿密な計画を立てて、しっかりリフォームを実行するに越したことはありません。
でも、しっかりリフォームには、それなりのお金も、労力もかかります。
「そこまでのお金や労力はかけられない」と思う人がいるのも当然です。
そんな方におすすめしたいのが、アンチエイジングリフォームのもう1つのプラン。インスペクション(住宅の劣化や不具合の状況の調査)を中心とした「山下式ずぼらプラン」です。
やることは簡単です。
5年ごとにインスペクションをして、問題があればその箇所のリフォームをする。
それだけです。
リフォームの時期の目安はいろいろなところで言われていますが、これはあくまでも目安です。
日当たりや雨量などが立地や地域によっても異なるため、長くなることもあれば、短くなることもあります。
もし、数年でもリフォームを遅らせることができ、リフォームの回数が減るのであれば、それだけ費用も安くすむわけです。
そして、インスペクションを行ってくれた会社が、今後どのようにすべきかを、教えてくれるはずです。
そんな業者はないと思いますが、調べるだけの会社もあるかもしれません。
念のため、「診断後のメンテナンスプランのアドバイスはもらえますか?」と尋ねておいてもよいでしょう。
「住宅診断」や「インスペクション」という単語をネットで検索してみてください。
「既存住宅状況調査技術者」や「既存住宅現況検査技術者」、「長期優良住宅化リフォーム推進事業登録インスペクター」などの資格を持った業者を選ぶとよいでしょう。
そもそもインスペクションとはなんでしょう。
2013(平成25)年、国土交通省が、「既存住宅インスペクション・ガイドライン」を定めました。
これは、住宅の構造安全性や日常生活に支障がある劣化などの有無を把握するための指針です。
この中で検査項目として挙げられている劣化には、次のようなものがあります。
・柱・はり・床・土台・壁・基礎(蟻害・腐朽および腐食・傾斜・ひび割れなど)
・屋根・外壁・サッシ・天井など(雨漏り・水漏れにつながる劣化)
・給水管・排水管など(さび・詰まり・水漏れなど)
これらの劣化が特に取り上げられているのは、放置しておけば、重大な問題につながる可能性があるからです。
ただ、そうなると、
「インスペクションの検査項目に含まれていない建築部位、設備に関しては、どうしたらいいの?」
と、気になる人もいるでしょう。
それらの建築部位、設備……、たとえば排水管・給水管を除いた水回り設備、給湯器、内装などは、劣化が進んでも、家の寿命を縮めるほどの大事に至ることはまずありません。
使い勝手や見た目が悪くなるまで、割り切って使用し続けるのも、1つの方法です。
突然壊れたり、不調が起きたりするのを避けたいなら、早めにリフォーム、交換などの対処をすればいいのです。
ただ、インスペクションをいつ受けて、いつリフォームが必要なのか、時間があくと、忘れる場合もあります。ぜひ、ノートなどに、インスペクションした日やリフォームすべきところ、のちにリフォームすべきところを記入して、忘れないようにしてください。
インスペクションを上手に活用する「山下式ずぼらプラン」
家を売る側、買う側のどちらにとってもお得!
家は長く住み続けたほうが絶対にお得です。
それでも、どうしても家を売らなくてはならないときもあるでしょう。
そんなときには、インスペクションが必要になります。
インスペクションについて、もう少し詳しく説明しておきましょう。
インスペクションとは、目視や計測などにより、住宅の基礎や外壁のひび割れ、天井の雨漏りなどの劣化・不具合が発生していないかを調べる「建物状況調査」です。
国土交通省が2013(平成25)年に定めた「既存住宅インスペクション・ガイドライン」では、インスペクションを次の3つに分類しています。
・一次的なインスペクション(既存住宅現況検査)……目視や非破壊検査で構造安全性や日常生活に支障があると考えられる劣化事象の有無を把握するもの
・二次的なインスペクション(既存住宅診断)……はがし検査(破壊検査)も含めた詳細検査を行い、劣化事象の生じている範囲や不具合の原因を総合的に判断するもの
・性能向上インスペクション……性能向上リフォーム時の前や後に住宅性能を把握するもの
そもそも、このようなインスペクションのガイドラインが定められたのは、どうしてでしょうか?
実は、いまだに新築信仰が根強く残る日本では、住宅販売における中古住宅の流通シェアが欧米諸国と比べて圧倒的に小さいのです。
そのため、国が中古住宅の品質の客観的な評価基準を設けて、売買の際の価格設定を明確にすることで、市場の活性化を図ろうとしているのです。
以前は、業者によって検査の技術や基準がそれぞれ異なることもあり、同じ中古住宅でも査定価格にばらつきがありました。
しかし、「既存住宅インスペクション・ガイドライン」が定められ、それに従ってインスペクションを行えば、業者にかかわらずほぼ同じ査定価格が算出されるので、中古住宅市場の信頼性が高まります。
中古住宅を売る側、買う側の双方にとって、メリットは少なくありません。
売る側は、インスペクションの結果をふまえてメンテナンスを行うことで、適正な価格で査定、売却しやすくなります。
また、仮にメンテナンスをしない場合でも、インスペクションによって住宅の状態が明らかになっているので、売却後にクレームを受けたり、修理費用を請求されたりするリスクは減るでしょう。
一方、買う側も、インスペクションを受けている物件なら必要な情報が得られるため、一定の安心感をもって購入することができます。
先ほど、「山下式ずぼらプラン」を紹介しました。
このプランで行うインスペクションは、基本は1次インスペクションで大丈夫。
ただし、防水紙が劣化している可能性があるので、「2000年問題」に該当する家、築20年以上の家は、屋根と外壁の下地や防水紙の状態を見る、「はがし検査」を行う、2次インスペクションを受けるのがおすすめです。
これからの中古住宅売買では、絶対的な必要条件に
2018(平成30)年4月、「改正宅地建物取引業法」が施行されました。
これにより、中古住宅の売買の契約を結ぶ際、仲介業者は、売り主と買い主の双方にインスペクションについての説明をすることが義務づけられました。
そして、売り主の希望があれば、インスペクション業者の紹介やあっせんを行った上で、インスペクションが実施されます。
さらに、仲介業者は、1年以内にインスペクションを実施したかどうか、実施したのであればその結果を、売買契約前に買い主に説明しなければなりません。
それと同時に、「建築基準法令への適合性」「新耐震基準への適合性」「新築時・増改築時の設計図書」「新築以降に行われた調査点検の報告書」などがあるかどうかも、買い主に説明する必要があります。
その上で、売買契約を結ぶときには、売り主と買い主がインスペクションの結果などをもとに建物の現状について確認した内容を、それぞれに書面で引き渡すのです。
中古住宅の売買時に求められるのは、目視や計測によって検査する、一次的なインスペクションです。
屋根、床下は、目視できる範囲だけが対象です。
家の壁については、目視のほか、水平・垂直を計測し、ゆがみや傾きがないかを確認します。
そのほかに、水回りの排水テスト、建具・サッシの開閉動作の確認なども行います。
ちなみに、一次的なインスペクションの費用は5~7万円ほどで、オプション料金や報告書作成料金が別途発生することもあります。
きちんとメンテナンスされた家の資産価値が高まる可能性が!
中古の持ち家に対する国の方針が変わってきた
一軒家は、25年で建物の資産価値がなくなるといわれてきました。
そのため、いくら直したところでお金の無駄と考える人は少なくありません。
日本では、長い間、中古木造住宅の評価額の算定方法は経年原価方式が基本でした。
どういうことかというと、メンテナンスをしている、していないにかかわらず、新築から20~25年たった家の価値はゼロとみなされ、土地の評価額しか算定されなかったのです。
しかし、2014(平成26)年3月、国土交通省から「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」が出されて、それまで不動産流通業界で慣行となっていた経年原価方式による建物評価をあらためようということになりました。
そこで新たに提案されたのが、それぞれの家の品質・性能に基づいて建物の価値を算定する評価方法への転換です。
これからは、きちんと補修、メンテナンスをしている家は品質や性能が保たれていると認められ、新築から年数が経過していても高く評価されるようになる可能性があります。
現時点では、まだ価格の基準は設定されておらず、メンテナンスをしっかりとした中古住宅の価値が目立って高くなるところまではいたってはいません。
ただ、これから変わっていく可能性はあり、事実、今、リノベーションした中古一軒家の需要は高まっています。
いくらリノベーションをするとはいえ、家の構造部分がしっかりしていない家は売れません。
今後、価値を高めるためにも、売れる可能性を高めるためにも、アンチエイジングリフォームで家の構造部分をしっかりと守っておくことが大切です。
山下 隆盛 /ヤマテック株式会社代表取締役社長。一般社団法人木造住宅塗装リフォーム協会(国交省認定団体)理事。NPO法人外装エコロジーシステム理事長。建築士。ファイナンシャルプランナー(FP)。1969年生まれ。神奈川県出身。大学卒業後、半導体業界へ就職。1998年に父親が起こしたばかりのヤマテックに入社。外装工事部門を立ち上げ、現在、神奈川県の県央エリアでは、外壁サイディング・屋根の施工数NO.1企業へと成長させる。長年、家のアンチエイジングのためのメンテナンスリフォームを提唱。さらに、外壁サイディング廃材の有効的な利用法を考えるNPO法人外装エコロジーシステム理事長を務めるなど、SDGsにも積極的に取り組む 。