取材・文/柿川鮎子
Withコロナ時代の新しいペットとの暮らしの中で、浮上してきたのがペットの肥満です。長かった梅雨で家の中で過ごす時間が増え、ヒトもペットもカロリーオーバーが気になります。コロナ太りを避けるための方法について、ひびき動物病院院長岡田響先生に伺いました。
まず大前提として、コロナによる肥満は増えてきているのでしょうか?
「信頼できる統計的なデータはありませんが、来院される方で明らかにコロナ太り、と自覚されている方が複数いらっしゃいました。
普段いない飼い主さんが家にいる時間が増え、これまで与えられていなかったおやつを食べる機会が増えています。「先生、みんなで太っちゃった」と言われる飼主さんもいらっしゃいました。“カロリーオーバーの傾向にある”ということは、飼い主さんもちゃんと理解されているようです。
特に長梅雨の今年は雨の日が続き、散歩に行けなかったという飼い主さんも多く、体重増加に拍車をかけてしまいました。
新型コロナの感染者数は増加し続け、第二波に向かい合う今、Withコロナの中で、ヒトもペットもヘルスケアをどうするか、きちんと考えるよい機会です」( 岡田先生 )
肥満かそうでないかの基準は意外と難しい
ペットの肥満は一般的にボディコンディションスコア(BCS)」と呼ばれる基準に基づいて、肥満度を判断します。肋骨や腰骨、骨盤が見えるか、背骨や肋骨に触れるか、腰のくびれがあるかなどで、判断します。
岡田先生によると「BCSで肥満基準に該当する子のほとんどのケースで、うちの子が肥満だ、と認識されている方はほとんどいません」と言います。多くの飼い主さんは、ペットが肥満であることをきちんと理解されていないようです。
「うちの子が肥満かどうかは、飼主さんだけの判断ではなく、動物病院やペットショップ、ペットサロンなど、専門家の意見を聞いた方が良いでしょう。
かかりつけの病院やペットサロンなどを利用する際には、毎回体重を記録して残しておくことで、病気の予防や、問題の早期発見につながります」とアドバイスしてくれました。やはり第三者の目できちんと判断することが第一歩のようです。
「お散歩やお買い物の時など、ペットと一緒に出かける際には、動物病院にも寄っていただき、体重測定など、ぜひ声をかけてみてください。今はコロナ対策で、予約の電話を入れるよう推奨されている病院が多いので、あらかじめ電話して聞いてみてください。当院でもダイエット相談は随時、受け付けています」
なぜ肥満が怖いのか
かかりつけの獣医さんが肥満対策の相談に乗ってくれる理由のひとつに、肥満が原因となる病気の存在があります。
獣医さんが教える犬の肥満が危険な4つの理由(https://serai.jp/living/355407)でも紹介しましたが、肥満傾向の犬は標準体重の犬に比べると寿命が明らかに短いこと。そして、尿路結石や糖尿病、膵炎などの病気になる危険が高まります。
岡田先生によると「特に犬の場合、ソファーやベッドの乗り降りの際に重たい体重を支え続けた足腰が、関節炎などになるケースが多く、痛みが慢性化し来院される方が多いです。若い子でも発症する椎間板ヘルニアや、手術が必要な靭帯損傷などの危険性が高まります。
また、膵炎や糖尿病など内臓の病気になってしまうと、命の危険があるために一生涯治療が必要になることもあります。そうならないためにも、肥満対策はとても大切な課題です」とアドバイスしています。
Withコロナ時代のウエイトコントロール
そこで、新しいペットのヘルスケア対策として、5つのウエイトコントロールのポイントを教えていただきました。どれも簡単で今すぐできるものばかりです。
ポイントその1 日常を見直し新しい生活様式に
コロナで新しい生活様式の変化は続いていくでしょう。ペットとの生活の中で、何が変化したのかを、飼主さんがここで一度振り返ってみてはいかがでしょうか。ペットと過ごす時間がこれまでに比べて増えてきた今だからこそ、少し細かく見てみましょう。
食事やおやつの量、トイレの回数、遊ぶ時間、寝る時間など、ペットとの生活のなかで、これまでと異なる生活習慣をあげてみましょう。そこから改善ポイントが見つかるかもしれません。
これからまた不在がちになる方には、自動追尾型のネットワークカメラなどでペットの観察をしてみるのも参考になるでしょう。
ポイントその2 太る原因を排除
岡田先生は「まずは何が変わったか、飼主さんが正しく変化を把握して、そのライフスタイルがペットにとって良い影響を与えていると思われるものは新たな習慣として定着させ、悪い点を止めましょう。おやつの機会が増えていたらそれをやめるか、一日の量を決めてそれが無くなるまでと決めます」と言います。
「体重管理については、増えてしまったものを減らすのはとても大変です。飼い主さん一人では難しく、家族全員の協力を得て、じっくり長期間、取り組むべきなのですが、しかし実際はこれがうまくいっていません」と、なかなか難しい課題であると岡田先生も理解してくれました。そこで提案してくれたのが次のポイント3です。
ポイントその3 ローカロリーフードでストレスなく減量
岡田先生は「私が提案したいのは、本当は肥満になってしまった後の対策ではなく、肥満にさせないことです。今の状態のまま、これ以上絶対に増やさないことを目指せば、ペットにも人にもストレスなくできます」と提案しています。
食事の量を管理するのも一つの方法ですが、今までと同じ食事内容で、単純に量だけを減らして与えると、必要な栄養素まで少なくなり、かえって食べたい衝動につながってしまう可能性もあります。
そこで岡田先生がお勧めしているのがローカロリーフードへの切り替えです。しかし、「やる前には、必ず動物病院などで、やり方を指導をしてもらいましょう」と言います。
「最初に病院などで教えてもらうのは面倒に感じるかもしれません。でも、せっかくコストのかかるフードを選んでも、やり方を間違えていれば、求める結果にたどり着くのが難しくなり、かえってもったいないことになってしまうからです。
動物病院で扱う減量治療用フードは、バランスよくカロリーを抑えられるようになっており、必要なバランスをとりながら、カロリーは少なくなるように計算されています。しかし、個体差があり、その子に合ったやり方で行わなければいけません。どの子も同じやり方ではありません」と教えてくれました。
ポイントその4 飼い主さんと一緒にダイエット
コロナ太り対策を、家族全員で一緒に取り組むと効果的だと岡田先生は主張しています。
「ヒトのダイエットについては申し上げることができませんが、意外と多いのが、自分の食事やおつまみ、おやつなどからついつい与えてしまう、という飼い主さんです。自分だけでなく、ペットにも美味しく食べて欲しいという、優しい気持ちから、つい与えてしまうようなのです。
そうしたケースでは、ペットだけに我慢を強いるのではなく、家族も美味しいものを与えないよう、我慢すること。一緒にダイエットと考えれば、うまくいくことがあります。
「ペットの長生きのために」という目標と同時に「飼い主さん自身の健康管理」という目標を付けて、いつまでも一緒に楽しく、元気に暮らすためのダイエットに取り組みましょう。
ポイントその5 ペットにもレコーディングダイエット
「食事メニューや量についての記録を残すのも、効果的ですが、続けるのは意外と難しいので、体重測定を定期的に継続することをお勧めします」と岡田先生。定期的に測定することで、病気の早期発見にもつながるようです。
「減量の必要性を理解していない方も少なくないので、当院では必ず毎回体重を測っています。動物病院へ一定間隔で来て頂くのが一番いいと思います。
自宅でペットの体重測定する時は、自分と一緒に体重計に乗って、あとから自分の体重を引きます。20キロくらいまでの子の場合は、人間用のベビースケールが便利です」と教えてくれました。記録し続けることで、ダイエットに関する意識も高まります。
暮らしを見直すきっかけに
第二波の到来が心配されるコロナですが、感染しない習慣を身に着け、さらに健康かつ快適なペットライフも続けたいもの。ペットのライフスタイルを見直していたら、自分の生活の変化を把握することにもつながりました。ヒトの暮らしを見直すきっかけになった、ペットの体重管理。ペットのおかげで飼い主も健康な生活に改善しそうです。
取材協力/岡田響さん(ひびき動物病院院長)
神奈川県横浜市磯子区洋光台6丁目2−17 南洋光ビル1F
電話:045-832-0390
http://www.hibiki-ah.com/
文/柿川鮎子 明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。