今に伝わる戦国時代の非常食!松の皮から作った秋田の郷土菓子「松皮餅」とは

文/鈴木拓也

戦国時代の戦い方の一つに、「籠城戦」というものがあった。これは、文字通り城に籠り、敵の包囲は甘受するものの、敵の補給が続かず兵を退くことを期待するという、いってみれば我慢比べであった。

もし敵の包囲下にあって、籠城する側の糧食が尽きれば、籠城戦はその時点で決着がつく。そうならないよう、城を持つ者は万が一の籠城戦に備え、3年分の米は常に備蓄し、城内に栗や柿など実のなる木々を植え、塩魚といった保存食の確保に努めた。

さらに、そうしたストックが尽きた最悪の事態も想定して、様々な非常食も考案された。例えば、タニシの塩辛、雑草であるアカザ煮、藁の粉末など、現代人にとっては、想像するだけで食欲を失いそうなものが多い。

今回ご紹介したい「松皮餅」も、長期の籠城戦の際の非常食として開発されたものである。

これはその名のとおり、松の皮を材料に使った餅で、製法は松の粗皮の下にある白皮を煮て、穀物を混ぜて蒸したのち、臼でつくというものであった。城内に植えられた松の木は、城の美観を増すだけでなく、このような使い方があったのである。

もちろん、味については二の次、三の次。腹がふくれればよしとするものであったが、これを美味しい郷土菓子として改良を重ね、今に伝えているのが、秋田県由利本荘市内の鳥海地域。今では日本唯一の松皮餅の生産地である。

秋田県活力ある集落づくり支援室の村おこしサイトによれば、「松皮餅は天明の大飢饉の際に救荒食として作り始めたとも、矢島藩主の生駒氏が改易前の四国で兵糧攻めの際に作りだしたとも言われています」とのこと。松皮餅の製法自体は、天明の大飢饉や矢島藩主の改易の前から伝わっていたから、この地が必ずしも元祖というわけではないだろうが、松の木が豊富に生えていたから、後の世まで作られ続けたのかもしれない。

同サイトによれば、材料の松皮の下ごしらえは相当手間のかかるもので、アクをとりながら数時間かけて煮込み、皮の繊維を棒で叩いて細かくする。これを餅に混ぜ、最後に餡を包んで出来上がりとなる。「甘さは控えめ。松皮が餡子の味を邪魔することもありません」とのこと。

松皮餅は、通常は鳥海地域の地元スーパーなどでしか入手できないが、例外的に「道の駅 鳥海郷」に隣接する土産店「ほっといん鳥海」がネット通販を行っているのを知り、松皮餅を買い求めてみた。1パック3個入りで300円である。

見た目はふつうの饅頭で、中には水気のやや少ない餡が詰まっている。今まで味わったことのない味覚を期待しつつ口にいれたが、松の皮を連想するようなフレーバーではなかった。正直、意外性が乏しい点は否めないが、甘すぎず、しょっぱすぎず、上品な味わいを楽しめる。

お茶請けに、とても合いそうだ。もちろん戦国期の非常時には、餡など望めなかったろうから、もっと粗野な味だったはず。

地元では、松の木は長寿を表すことから、お祝いのお供えとしても用いられ、ひな祭りでは、白餅や蓬餅とともに三色の菱餅に加えられたという。万一の際の非常食からお供えまで、素朴なお菓子にも深い歴史があるのだ。

【松皮餅についてのお問い合わせ】
『直売所 ほっといん鳥海』
■住所/秋田県由利本荘市鳥海町上笹子字堺台100
■電話/0184-59-2022
■営業時間/8:30~18:00

【参考リンク】
※ あきた元気ムラ!秋田県のがんばる農山漁村集落応援サイト

【参考資料】
『戦国の食術: 勝つための食の極意』(永山 久夫/学研パブリッシング)

文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。