文・写真/杉﨑行恭
![西武秩父線](https://serai.jp/wp-content/uploads/2019/09/cd7b270e2535f6c136b3b35f53345ebc-500x334.jpg)
西武秩父線
池袋駅から西武鉄道で約1時間、飯能駅で西武秩父線に乗り換えて高麗駅に降りた。駅名でもわかるとおり、高句麗からの渡来人ゆかりの地だけに、駅前には人面の下に天下大将軍、地下女将軍と書かれた「将軍票」が立っている。これは、朝鮮半島の村落の入り口に建てられたという魔除けの門柱だ。
![将軍票が立つ西武秩父線高麗駅](https://serai.jp/wp-content/uploads/2019/09/2e6d41464d020505c45eaa2dca6c3c00-500x334.jpg)
将軍票が立つ西武秩父線高麗駅
その駅から、一旦ガードをくぐって国道299号線を渡り、小道を下っていくと高麗川の清流を渡った。ここが、毎年9月下旬から10月初旬にかけて、彼岸花の大群落が出現する巾着田の入り口だ。それにしても巾着田とは面白い地名だが、正丸峠から流れ下ってきた高麗川が、山地から平原に出るところで大きくU字状に蛇行するところが巾着に似ていることからこの名がついたという。
![高麗駅からのどかな道を歩く](https://serai.jp/wp-content/uploads/2019/09/5a702a4414dffb469a7727b082e0c905-500x334.jpg)
高麗駅からのどかな道を歩く
ここまでの野の道にもコスモスや萩の花とともに彼岸花が見られたが、巾着田に入ると、高麗川に沿った河川敷一帯が真紅の絨毯を敷き詰めたように彼岸花が群生していた。その数は500万本ともいわれ、群生地としては日本最大とされている。およそ5.5ヘクタールの巾着田曼珠沙華公園は、開花期間中は有料(300円)で、園内の散策路を歩くことができる。雑木林の中を歩き、木漏れ陽を浴びて怪しく咲き乱れる彼岸花に囲まれていると、自分が何処にいるのかわからなくなって来る。まさに彼岸と此岸の境にいるような感覚、そんな浮世離れした風景が600〜700mにわたって続く。
ところで、なぜここに彼岸花の群落ができたのだろうか。巾着田曼珠沙華公園の入り口で聞くと「昭和の終わり頃から咲き始め、いつのまにか大群落になった」という。「たぶん上流から流れてきた球根が元ではないか」という。それが平成時代に大繁殖を遂げたのだ。
![彼岸花の咲く不思議な空間](https://serai.jp/wp-content/uploads/2019/09/71a4639c606a61fe0742fa5310ecaeb7-500x334.jpg)
彼岸花の咲く不思議な空間
![延々と続く彼岸花の群落](https://serai.jp/wp-content/uploads/2019/09/5684cac356eca3be4983567422599088-500x334.jpg)
延々と続く彼岸花の群落
もとより彼岸花は稲作と同じ頃に渡来したとされる東アジア特有の植物で、球根には他の生物を阻害する物質を出すことから、田んぼのあぜ道の雑草よけや、土葬の遺体を野生動物から守るために、墓地に植えられたとされている。さらに秋の彼岸になると突然咲くため、彼岸花には独特のイメージが重なる。それでも、飢饉の際には球根を消石灰で煮ることで毒を抜けば、食用になることから貴重な非常食でもあった。なにより、人の手が加わったところにだけ咲く彼岸花は渡来以来、人々の暮らしとともにあったのだ。欧米では園芸植物として「リコリス」というギリシャ神話の女神の名が与えられ、またアメリカでは「レッド・スパイダー・リリー」の名で珍重されているという。
![球根に毒を持つが、漢方の薬草でもある](https://serai.jp/wp-content/uploads/2019/09/0b7dec3c4442bf6772f7f86836f75283-500x334.jpg)
球根に毒を持つが、漢方の薬草でもある
天下の奇景ともいえる巾着田の彼岸花群落を見た後は、どこか「山の辺の道」を思わせるカワセミ街道に沿って歩いてみよう。8世紀の奈良時代、この地を与えられたという高句麗王族、高麗若王(こまのじゃっこう)の墓がある聖天院勝楽寺や、渡来人が建立の由来になった高麗神社も訪ねてみたい。
![高麗若光の廟がある勝楽寺](https://serai.jp/wp-content/uploads/2019/09/aee00b0ea260242b8f5f0a232cb9da33-500x334.jpg)
高麗若光の廟がある勝楽寺
![高麗神社は巾着田から約2km](https://serai.jp/wp-content/uploads/2019/09/f747e801315bcfae240b0391a6570b8c-500x334.jpg)
高麗神社は巾着田から約2km
【INFOMATION】
![高麗川と大群落](https://serai.jp/wp-content/uploads/2019/09/9d59a2c961316895023e19a3dfd73501-500x334.jpg)
高麗川と大群落
巾着田曼珠沙華公園
埼玉県日高市高麗本郷55
開花期間中入場料300円
西武秩父線高麗駅から徒歩15分
9月14日〜29日まで「巾着田曼珠沙華まつり」も開催
※今年の開花はやや遅く、満開時期はHPで確認したい
https://www.hidakashikankou.gr.jp/manjushage/
文・写真/杉﨑行恭
乗り物ジャンルのフォトライターとして時刻表や旅行雑誌を中心に活動。『百駅停車』(新潮社)『絶滅危惧駅舎』(二見書房)『異形のステーション』(交通新聞社)など駅関連の著作多数。
![彼岸花の咲く不思議な空間](https://serai.jp/wp-content/uploads/2019/09/71a4639c606a61fe0742fa5310ecaeb7-660x400.jpg)