■イノシシにエサをやる人々
プラナカンの伝統料理であるニョニャ料理を堪能する前に、書さんが連れて行きたい場所があると、ひとりではしゃいでいます。
「これは、ガイドブックにもない! きっと日本人はびっくりするよ!」と興奮気味に話すので、知られていない博物館か、きれいな夕陽が見える丘かと期待が高まります。車は住宅街を抜け山道へ。なんと、そこには20匹ほどのイノシシが! おばさんがひとりでエサをあげています。いいえ、一人ではありません。次から次へとバイクや車で人がやってくるではありませんか。
ある人が昔、イノシシを飼っていて大きくなったので山に戻したら、数年後、ウリ坊7匹を見せに家族で戻ってきたそうです。どうやら中国やマレーシアの仏教には、野生動物をかわいがり野に放つことで徳を積む習慣があるのだとか。自然環境にいいのか悪いのか論議はさて置き、「大きくなったねー」「よく食べてねー」と皆さん、嬉しそうに市場でもらった古い野菜や食堂の残飯など、エサを置いては帰っていきます。
「どうだ! 野生のイノシシなんてみたの、はじめてだろう?」と書さんが自慢げに言うので、私が日本の山でイノシシに遭遇し茂みに隠れた話をしたら、「なんと! 白石さんは、野生のイノシシを見たことあるらしい!」とおばさんに話しはじめました。
するとなぜか「イノシシにタッチしなさい!」とおばさんがキャッキャッと私の腕を引っ張りますが、見知らぬ人に驚いたイノシシたちは一斉に山に逃げてしまいました。徳を積むどころか、脅かすなんてイノシシにはかわいそうなことをしました。