文・写真/市川美奈子(海外書き人クラブ/台湾在住ライター)

台湾中部の嘉義県にある阿里山。ここに、1912年に作られた鉄道がある。その名は阿里山林業鉄道。以前からこの鉄道を知っている方は、「阿里山『森林』鉄道の間違いでは?」と思われるかもしれない。確かに、かつてはそう呼ばれていた。しかし2018年7月1日、同鉄道の所管部署が変更になったことに伴い、「阿里山林業鉄道」に名称変更されている。通称は今も昔も変わらず「阿里山鉄道」だ。

DL42号。1982年に導入されたディーゼル機関車だ。

建設されたのは日本統治時代。木材を運搬する産業鉄道として生まれ、1920年からは旅客輸送を行っている。

現在、日本と台湾の間には40を超える姉妹鉄道協定が締結されている。その第1号となったのは、1986年1月25日に阿里山鉄道と大井川鐵道の間で締結された姉妹鉄道協定だった。

日台鉄道交流の第2号が締結されたのは、そこからずっと後の話。2012年3月14日、日台鉄道交流の第2号となるJR北海道C11SL列車「冬の湿原号」と台湾鉄路管理局「CK124SL列車」の間で姉妹列車提携が締結された。つまり阿里山鉄道と大井川鐵道との姉妹鉄道協定は、四半世紀以上もの間、鉄道分野における唯一の日台姉妹協定だった。

かくも日本と縁が深い阿里山林業鉄道。日本の鉄道ファンにも人気の、この鉄道の魅力を紐解いてみたい。

「世界三大登山鉄道のひとつ」と称される鉄道

阿里山林業鉄道、通称阿里山鉄道は、台湾中部の嘉義駅と阿里山駅を結ぶ本線と、3本の支線から成っている。3本の支線とは、阿里山駅を起点として祝山駅までつながる祝山線、阿里山駅と神木駅を結ぶ神木線、阿里山駅と沼平駅を結ぶ沼平線だ(このほかに、線路の中断などで運行停止中の眠月線と、既に廃線となり遊歩道として整備されている水山線がある)。

阿里山鉄道の全路線図。(図提供:阿里山林業鉄路及文化資産管理処)

本線は標高30mの嘉義駅から、2216mの阿里山駅まで。世界有数の標高差を、約4時間(途中の奮起湖駅での停車を含めると約5時間)かけて登っていく。この驚異的な標高差は、阿里山鉄道を「世界三大登山鉄道」たらしめている所以でもある。

全線の中で最も標高が高いのは祝山線の終点駅である祝山駅。標高2451mのこの駅は、阿里山鉄道だけでなく、台湾の全鉄道路線の中で最も標高が高い駅としても知られている。祝山駅出口付近には日の出鑑賞のために作られた見晴台もあり、日の出鑑賞スポットとして人気だ。

阿里山鉄道の最大勾配は6.25%(62.5パーミル)に達する。これは、列車が1000m進んだときに62.5m上ることを意味しており、かなりの急勾配だ。絶え間なく続く急カーブと急勾配を乗り切るために、らせん状線路やZ字型スイッチバックなどの工夫が取り入れられている。

カーブを繰り返しながら登っていく。
神木駅付近のスイッチバック。

ゲージ幅は、いまや日本では3社4路線にしか残っていない貴重な762mmのナローゲージ。車内には、通路を挟んで1人用席と2人用席が配置されている。コンパクトな客車に揺られ、熱帯、亜熱帯、温帯、寒帯と移り変わる景色に目をやれば、この先へと続く旅路への期待感はますます高まってくる。

苦難の時代も長かった

阿里山鉄道は2009年と2015年に台風による土砂崩れなどに遭い、一部区間が不通になっていた。嘉義から阿里山までの本線が全線復旧したのは2024年7月6日。じつに15年ぶりの全線開通だった。

現在の阿里山駅は、被災前に建てられたものだ。駅舎には周辺を見渡せる展望台が併設されており、なかなかの壮観。連綿と続く山々を見やれば、遠路はるばる阿里山までやってきた達成感と充実感が胸に去来する。

2007年9月に完成した駅舎。
展望台からの雄大な風景。

阿里山鉄道の一部の駅や特別列車では、昔懐かしい「入鋏(にゅうきょう)」が行われている。阿里山駅で支線の切符を購入し、駅員さんに入鋏してもらう。掌の中にある切符が、より一層の旅情を帯びる瞬間だ。

入鋏の順番待ち。待つ時間も旅の醍醐味を味わうことができる。

阿里山駅からの支線は、運行距離が短くなる分本数が増える。神木線は終点の神木駅まで片道7分、1日11往復の運行。沼平駅は終点の沼平駅まで片道6分、1日12往復の運行だ。

これらと少し趣が異なるのが片道25分の祝山線。日の出の時刻に合わせて運行されているため、具体的な運行時刻は前日16時以降に発表されている。

駅の時刻表とウェブサイトで発表される。

また、2024年からは一部区間で、観光列車である栩悅號(Vivid Express)と福森号(Formosensis)が運行されている。こちらは客車が改装されてゆったりした座席配置になっていたり、車両ごとに専属のガイドがついたりするなどの特徴がある。高級感のある旅を楽しみたい方におすすめだ。

スタイリッシュな外観の栩悅號(Vivid Express)。
福森号(Formosensis)の内装。高級感が漂う。(写真提供:阿里山林業鉄路及文化資産管理処)

40周年記念の大井川鐵道ラッピング 実は史上初だった

1986年、日台鉄道交流の扉を開いた阿里山鉄道と大井川鐵道の姉妹鉄道協定は、今年40周年を迎えている。これを記念し、2026年1月23日から、阿里山鉄道の車体に大井川鐵道の特別ラッピングが施された客車が運行されている。現時点では6月末まではラッピングを継続予定だ。

実は、阿里山鉄道に他国の車両をモチーフにしたラッピングが施されるのは、今回の大井川鐵道が史上初という快挙。40周年という記念すべき年にふさわしい、貴重なコラボレーションだ。

この機会に是非、脈々と今に受け継がれる日台鉄道交流の歴史に思いを馳せてみては。

鮮やかな大井川鐵道ラッピング。(写真提供:阿里山林業鉄路及文化資産管理処 撮影:呉明翰)

阿里山鉄道 予約方法

阿里山鉄道の公式ウェブサイトから、14日以内(乗車日を除く)の列車を予約することができる。日本語での予約およびクレジットカードでの決済が可能。(https://afrch.forest.gov.tw/Ja
福森号(Formosensis)などの一部観光列車は、台湾の旅行会社「Lion Travel」や「kkday」のウェブサイトなどで数か月前からの予約が可能だ。

文・写真/市川美奈子 (台湾在住ライター)
民間企業、外務省外郭団体などの勤務を経て、2023年4月から行政機関の職員として台湾に駐在。早稲田大学第一文学部卒。台湾の奥深さに魅了され、台湾各地のさまざまな街を旅行&取材。訪れた先々で、その土地ならではの美食を堪能するのが楽しみ。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)の会員。

 

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