文・写真/角谷剛(海外書き人クラブ/米国在住ライター)
ロサンゼルスの南に位置するオレンジ郡の中心部にあって、ディズニーランドやエンゼル・スタジアムなどの有名観光スポットが集中するアナハイム市のすぐ近くに、アート鑑賞、歴史探訪、そして街歩きが一体となったエリアが存在する。『ヒルバート美術館(Hilbert Museum of California Art)』と、その周囲に広がる歴史保存地区『オールド・タウン・オレンジ(Old Towne Orange)』である。
日本からの旅行者にはあまり知られていない穴場のひとつだ。

ヒルバート美術館は、チャップマン大学のキャンパスの一角に2016年に開館した比較的新しい美術館である。ロサンゼルス一帯をカバーする地域鉄道『メトロリンク(Metrolink)』の『オレンジ駅(Orange Station)』のすぐ目の前という好立地条件にある。ロサンゼルスの中央ターミナルにあたる『ユニオン駅(Union Station)』からの所要時間はおよそ1時間。駅を出て、すぐ正面にある建物が美術館というアクセスの良さは、アメリカでは希少である。しかも入館は無料だ(2025年6月現在)。
施設名に「California Art」とある通り、展示作品のほとんどは地元アーチストによるものだ。写実的な風景画が中心になっているので、あまりアートに詳しくない旅行者でも十分に楽しめる。サーファーのいる海岸、古い農場、都市の街角、鉄道の風景など、カリフォルニアの風景がさまざまな角度から描かれている。時代は20世紀前半から中期にかけてのものが多く、現在の姿と見比べてみる楽しみもある。

ヒルバート美術館は2024年にリニューアル拡張が完了し、展示面積と内容が一層充実した。従来の風景画に加え、ディズニーやハリウッド関連のアートも含まれていて、アニメや映画ファンにとっても興味をそそられる作品も多い。
2025年2月には映画『A Complete Unknown』(邦題:『名もなき者』)で脚光を浴びているボブ・ディランの肖像画(https://www.instagram.com/p/DGoRoSMtCE-/?utm_source=ig_web_copy_link)が新たに展示作品に加わったことが、地元ではちょっとした話題になった。アートにさほど興味がない筆者が、この美術館に初めて足を向けたのは、実はそのニュースがきっかけだ。
同年4月の時点では、ボブ・ディランの肖像画はエントランスホールに飾られていて、記念撮影の列ができていた。
館内では作品の撮影が自由で、「お気楽にSNSでシェアしてください」とまで案内板に書かれている。ちなみに筆者がもっとも感銘を受けた作品は、カリフォルニア発祥の人気ハンバーガーチェーン『イン・アンド・アウト・バーガー(In-N-Out Burger)』の隠れメニュー、ダブルチーズバーガーの「アニマル・スタイル」を描いたものだ。

美術館のすぐ近く、徒歩5分程度で到達できる歴史保存地区『オールド・タウン・オレンジ(Old Towne Orange)』にもぜひ足を運んでほしい。 この地区は20世紀初頭の街並みが保存された歴史的エリアであり、全米有数のアンティーク街としても知られている。
街の中心となる円形のロータリーを囲むようにしてアンティークショップ、古本屋、クラシックなカフェ、レストランが軒を連ねている。創業100年以上の歴史を誇る店も多い。通りを歩けば、レトロな看板や煉瓦造りの建物が目を引く。つい先ほど美術館で鑑賞した街の風景がそのまま出現したかのような錯覚を覚える。

ヒルバート美術館とオールド・タウン・オレンジはレンタカーを利用せずに電車と徒歩のみで訪れることができる。地図を確認する必要もほとんどない。初めての訪問でも迷うことはないだろう。治安が良いことも、日本人旅行者にとって大きな安心材料だ。
派手な観光スポットではけっしてないが、カリフォルニアの歴史と文化に触れながら穏やかな半日を過ごすには最適の場所である。ロサンゼルス訪問時に、いっとき大都市の喧騒を離れ、カリフォルニアの原風景に触れたいと願う旅行者におすすめしたい。

ヒルバート美術館公式ウェブサイト https://hilbertmuseum.org/
文・写真 角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。
