文・写真/バレンタ愛(海外書き人クラブ/現オーストリア在住、前カナダ在住ライター)
中欧に位置する国ハンガリー、その国の首都ブダペストはとても美しい街だ。街の真ん中をドナウ川が流れ、美しい橋がかかり、川沿いには街のシンボルともいえる国会議事堂が建っている。ドナウ川の両側は西岸がブダ、東岸がペストで、ブダペストとして1つの街になったのは1872年のことだ。そしてドナウ河岸とブダ城地区およびアンドラーシ通りは、世界遺産にもなっていて、その美しい街並みは「ドナウの真珠」「東欧のパリ」など呼ばれている。
ハンガリーは、美しく歴史ある国というだけではなく、美食の国でもある。
グラーシュなどの伝統的料理も有名だが、近年ではモダンで洗練されたレストランも多く登場している。ミシュランレストランガイドでも、いくつものレストランが星を獲得している。そして日本ではあまり知られていないかもしれないが、有名なワインやフォアグラも生産している。
ハンガリーには、全部で22のワイン産地がある。その中でも世界三大貴腐ワインの1つとされるトカイワインや、濃厚な赤ワインとして知られる「牡牛の血ワイン」でエゲルなどが有名だ。トカイワインが生産されるハンガリー北東部のトカイ地方は、「トカイのワイン産地の歴史的・文化的景観」として世界遺産にも登録されていて、その土壌や地質、貯蔵施設なども含めこの地方独特なものとされている。トカイ地方では、主にフルミントという品種で、その他にはハールシュレヴェリューやイエローマスカットなどの品種も栽培されている。これらのブドウを使って造られたトカイワインは、甘い貴腐ワインが有名だ。辛口の白ワインなども生産しているが、デザートワインとして楽しまれる糖度の高いワインを貴腐ワインという。トカイの貴腐ワインの起源は1650年ごろにさかのぼると言われる。オスマン帝国が侵略して来たせいで、ブドウの収穫が遅れた。収穫時期を逃した果実に菌が付き、糖度が高く独特の香りを持ったブドウが出来た。そして、そのブドウから造ったワインが、トカイの貴腐ワインの始まりと言われている。トカイワインは、その造り方によってカテゴリーがあり、糖度によって puttonyos(プットニョス)と言われる3~6に分けられていて、数字が大きい程甘くなる。
またハンガリーは、フランスに次ぐフォアグラの生産量をほこり、名産品にもなっている。レストランなどでは、前菜やメインにフォアグラのメニューが良く見られるほか、スーパーやお土産屋さんなどでもフォアグラ製品が並んでいる。甘いトカイワインと、フォアグラは良く合い、レストランのメニューでもソースに使われていたり、一緒に楽しんだりすることが多い。
そんなハンガリーの「美食」だけでなく「文化」「伝統」などが集まっているのが、1897年から地元の人に親しまれている中央市場だ。19世紀終わりにブダペストとして1つの大きな都市になり、市内に住む人の数が多くなった。そして人々の食料を確保する為に、市内にはたくさんのマーケットが造られだのだった。この中央市場もそのマーケットのうちの1つだ。
レンガ造りの3階建ての建物で、新鮮な野菜や果物を売る八百屋さん、お肉屋さんなどが入っている。今では伝統工芸品であるカロチャ刺繍や、陶器、お土産屋さん、スーパーや日用品を売るお店なども入り、ブダペスト観光スポットのトップ5にも入っている。ドナウ川や、歩行者専用道路ヴァーツィ通りからもすぐの所にあり、観光でも立ち寄りやすい。そして、ブダペストの人たちの食生活や文化などを感じられる場所だ。
それだけではなく観光客に嬉しいのは、このマーケットの中で観光しながら日用品やお土産が買える。Vámház krt 通りからマーケットに入ると、手前は野菜やフルーツ、そしてこちらも名産のパプリカやフォアグラの缶詰などを売るお店がいくつも並んでいる。
パプリカはかわいい袋や缶や瓶に入っている粉末状のものや、チューブ入りのものがあり、種類も豊富だ。いくつかセットになっていたり、そのままお土産として渡せそうなパッケージに入っているもの、家庭用のものなど様々な種類のものがある。フォアグラは鴨とガチョウのものがあり、サイズも1回で使いきれるミニサイズから、家族用の大きなサイズ、そして種類もたくさんある。
野菜などはアパートメントに滞在して自炊していない限り必要ないかもしれないが、フルーツなどと共にキレイに並べてあるのを見て歩くのもとても楽しい。
少し奥に行くとお肉売り場だ。日本とは違うサイズやカット、あまり見かけない部位や、肉の種類なども見られるので、ハンガリーの人たちの食生活を垣間見ることが出来る。その中にはもちろん名産のフォアグラも並んでいる。お肉屋さんに並んでいるフォアグラは生で1匹分だ。ちなみに「フォアグラ」という言葉はフランス語なので、ハンガリーのマーケットでは「Libamáj」と書いてあるのがフォアグラになる。マーケットでもお土産屋さんでも、そしてレストランでも、ハンガリーに行くのに知っていて損はしない単語だ。
またワインを含むアルコール飲料も所々で売られている。そして一番奥の方に行くと、国内に22カ所あるワインの産地の地図や賞を取ったワインの情報展示がある。ワイン好きな方は、買い物前にそこをチェックしてみるのもいいかもしれない。また同じく奥の方には、ハンガリーで採れるマッシュルームの展示もある。様々な種類が採れるマッシュルームも名産の1つだ。この辺りはミニ博物館のようになっていて、見ていても面白い。
2階は、民芸品やお土産を売るお店が並んでいる他、飲食店がある。
ハンガリーの伝統工芸であるカラフルなカロチャ刺繍の洋服や、雑貨、タペストリーなどや陶器、レース編みなどが並んでいて、長い間受け継がれてきたハンガリーの人々の器用な手仕事や伝統を見ることが出来る。それらの民芸品や、ハンガリーのお土産などを見て歩くのも楽しい。
そして同じく2階には、飲食店も入っている。簡単なスナックや、軽めの食事、しっかりしたハンガリーのメニューなどまであり、ここでもハンガリーの食文化を見られる。テイクアウトも出来るし、テーブル席も用意されているので、ここで食べることも出来る。観光兼ショッピングの合間に気軽に食べられる選択肢があるのは、旅行者にはとても嬉しい。
そして地下にはスーパーや日用品を売るお店、お肉屋さんやお魚屋さんなどが並んでいる。買い物やお土産探しにももちろんお勧めなのだが、それだけではなくスーパーや日用品を売るお店も、地元の人の生活の様子が分かるので見て周るのはとても興味深い。ブダペストの中央市場は、食、伝統、文化、歴史などが詰まった博物館のようだ。
【INFORMATION】
Central Market Hall:
H-1093 Budapest, Vámház krt. 1-3.
Opening hours:
Monday 6.00 – 17.00
Tuesday – Friday: 6.00 – 18.00 Saturday: 6.00 – 14.00
CLOSED on Sundays and official holidays.
http://www.piaconline.hu/new/hir.php?f=turisztikaiprogramok
文・写真/バレンタ愛 2004年よりオーストリア、ウィーン在住。うち3年ほどカナダ・オタワにも住む。長年の海外生活とトラベルコンサルタントなどの経験を活かし、2007年よりフォトライターとしても多数の媒体に執筆、写真提供している。海外書き人クラブ(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。