「ねえ、好きって言って」とせがまれて……
彼女が言うままに、食材を名和さんが購入し、自宅に行く。
「『ご主人がいるんじゃない?』と私が言うと『2年前に大腸がんで亡くなったのよ』と彼女は言う。そこで安心すると同時に、男としてできるのだろうかと心配になりました。女房とは15年ほど何もしていないし、最近ではそういう気持ちも起こらない。
でも、彼女の小さな手が私の手に触れたときに、電流が走るような刺激がありました。食材は高級スーパーで購入したのですが、思わず歯ブラシを購入してしまいました。というのも、部分入れ歯になってしまい、口臭が気になっていたからです」
彼女の家は、名和さんの家から近い高級マンションで、夫の遺産だそう。
「ご主人は大手企業で役員になった人だそうです。だから彼女もお金には困っていないけれど、愛に飢えていたんでしょう。
牛しゃぶしゃぶの自宅ランチが終わると、『ねえ、好きって言って』と私に抱き着いてきたんです。
名和さんは、彼女の愛情と欲望を全力で受け止める。
「どうも、私の声がよかったらしく、声を褒められました。こんなに冴えない男ですが、この年になって、女性からアプローチされるなんて、全く予想していませんでした。彼女は4歳年下で、体もとても美しく、キレイだった」
それから2年、つかず離れずの距離を保ちながら、いい関係を維持しているという。
「お互い、運命の人だったような気もするんですが、私には妻がいて、大切にしなければならない。彼女も彼女で、世間体を大切にしている。ご主人が亡くなって、男を作ることは、彼女にとってはふしだらなことらしく、私を隠そうとします。
時々、ヒステリックになることもあるのですが、嘱託職員時代のヒステリックな元部下のことを思えば、なんでもないですよ(笑)。まさか、あの経験が今、生きるとは思っていなかった。
将来を考えるよりも、今一緒に会う時間を大切にしようと思っています」