42歳の時に彼女は新卒で入社してきた
きちんと整えられた指先で、清潔なハンカチを持ち、時折、照れながら汗をぬぐう姿がチャーミングだ。最後の恋について話を伺った。
「相手は、元部下の女性なんだ。私より20歳年下で、私が42歳の時に新卒で入ってきた。特に目立つタイプではなかったけれど、堅実にコツコツと仕事をしてくれるところに好感を持った。飲み会で直属の上司に勧められるまま酒を飲んでしまい、介抱したこともあった。その後、あまり感情を表に出さないから、いろいろ溜め込みすぎないように話を聞いていたかもしれない。でも、特にかわいがっているわけではなかった。それに、女性として意識したこともなかった。当時私の娘が12歳だったから『あと10年したら、こんなに大きくなるんだな』程度に思ったくらい」
彼女は25歳で官僚と結婚した。
「誠実でいい子は、結婚も早いと思った。彼女が28歳の時に子供が生まれて、29歳まで産休を取った。その休んでいる最中に、会社の業績がガタ落ちして、リストラしなくてはならなくなった。私はそのリストラの責任者になったんだ。面談をして、肩たたきをする……嫌な仕事だったよ。みんな住宅ローンがあって、子供の進学にお金がかかる時期に辞めてもらうんだから。だから、必死で転職先を探したし、納得いく結論が得られるまで、じっくりと話したよ」
10年前は現在とは違い、マタニティハラスメントが社会問題になっていない。彼女は真っ先にリストラ対象に上がった。
「地味でおとなしいという性格が災いした。組織は言いやすい人に言うんだよ。彼女のリストラの面談をした時に、どうも私は、『あなたの会社への忠誠心と愛情を裏切るようなことをして申し訳ない』と言ったらしい。旦那さんともうまくいっていないみたいで、子連れで転職活動は大変だと思い、次の職場を紹介したんだよね」
俊雄さんの誠意は、彼女の中に残り続けた。
「もともと、しっかりした女性だったから、転職先でも管理職になり、バリバリ仕事をしていると話を聞いて、うれしくなった」
【俊雄さんが定年退職した日に、彼女からケータイに連絡が入って……~その2~に続きます】