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文/印南敦史

年齢に関係なく、人間はいつでも次の次元を目指せる|『定年博士 ~生涯現役、挑戦をあきらめない生き方』

50代後半になると、多くのビジネスパーソンは必然的に「定年」を意識することになるのだろう。フリーランスの私には推測の域を越えない部分があるのも事実だが、たとえば学生時代の同級生を見てみても、少なからずそういう傾向はあるようだ。

「なんだか、もうすぐ“ゴール”に行き着いちゃうような感じがするんだよね」

先日、同級生のひとりからもそんなことばを聞いた。ただ、それはちょっと違うのではないかと感じる。「人生100年時代」というフレーズを引き合いに出す気はないが、それでも「定年=ゴール」という考え方は、いまや前時代的にも思えるからだ。

事実、『定年博士 ~生涯現役、挑戦をあきらめない生き方』(吉岡憲章 著、きずな出版)の著者は、定年がひとつのプロセスに過ぎないということを示している。

なにしろ、定年どころか77歳にして経営情報学博士号を取得したというのだから。具体的には70歳で多摩大学大学院に入学し、73歳でMBA取得。そののち2019年に、77歳で多摩大学大学院経営情報学研究科博士課程後期を修了したのである。

思い返しますと、60歳を迎えるあたりから、経営コンサルタントとして、もう一段高みを目指すことに挑戦したいと考えるようになったのです。自分の人生で、オンリーワンといわれるような、独特な「経営再生手法」をつくり上げたい。そのためにも、経営大学院に入って、論理的に究明する勉強をしよう。そう決心しました。(本書「はじめに 70歳からのチャレンジで、博士号を取得する」より引用)

こう考えたという時点で、定年をゴールと考えようなどという意識がまったくないことがわかる。そこにあるのは向上心だけであり、つまり定年など単なるプロセスとしか捉えていないということなのかもしれない。

ここには、(上記の同級生を含め)定年を間近に控えた多くの人々が学ぶべきものがあるのではないだろうか?

とはいえ著者はそこから先、順調に歩みを進めたわけではない。新たな挑戦をしようと決心したものの、役員として指導していた情報会社の倒産に直面してしまうのである。

社員はもちろん債権者のためにも、なんとかしなければ……。そんな思いから、再建の陣頭に立って指揮を執ったという。前例のほとんどない法的再建事例だったため困難を極めたそうだが、最終的には無事に再生させることに成功する。

なお、そのとき修羅場を見た経験については、その後の経営コンサルタントのスキルアップに大いに役立ってくれたと振り返っている。どこまでも前向きなのだ。だが、とはいえ再生活動とその衝撃から立ちなおるためには、5年もの歳月が必要だった。

だから時間が経ってしまったのである……とまとめられれば美しいかもしれないが、残念ながらそれだけでは終わらなかった。そののち著者は、前立腺がんの宣告を受けるのである。

結果的には無事に生き延びることができたものの、手術の前には「もしかしたら、もう生還できないかも知れない」と考え、遺言状まで書いたのだとか。

こうした思いがけないアクシデントのために、念願の大学院に入学できたときには、すでに70歳になっていました。
「ひらめいた その瞬間に みな忘れ」という川柳があるのですが、その言葉通り、ついさっき何を言ったかさえ忘れてしまうことがたび重なるような年齢です。
それでも大学院に通い、喜寿にして、ついに経営学博士(Ph.D.)をいただくことができました。(本書「はじめに 70歳からのチャレンジで、博士号を取得する」より引用)

だが大学院に入ったものの、博士号を取得するまでには6年かかった。当然ながらその過程においては、「もうダメだ、もう投げ出そう!」と諦めかけたことも一度や二度ではなかった。

年齢を重ねたうえでなにかに挑もうとする場合、必然的にそうした思いに苛まれるものなのかもしれない。

しかし、それでも苦難を乗り越えることができた理由について、著者は「妻の存在が、言葉に表せないほど大きかった」と綴っている。そういう意味では、博士号は夫婦ふたりで取得したものでもあると考えているそうだ。

たしかにそうかもしれない。きっと奥方の支えは不可欠なものだったのだ。だが、それも最終的には本人の強い意志があってこそである。

つまり著者は博士号取得を通じ、年齢に関係なく、人間はいつでも次の次元を目指せるということを証明したのだ。

一般的には仕事の上では卒業するような年齢でも、
「これからが自分の青年期ならぬ盛年期が始まる」
との思いでトコトンやれば、夢を現実として掌中に収めることができる。
いま、その確信を得ることもできました。(本書「はじめに 70歳からのチャレンジで、博士号を取得する」より引用)

経験に基づき、博士号取得までの道のりから、「定年時代」の生き方までを綴った本書は、定年に対する考え方を変えてくれるかもしれない。

『定年博士 ~生涯現役、挑戦をあきらめない生き方』

吉岡憲章 著
きずな出版
本体価格 1500円(税抜)
2020年3月

『定年博士 ~生涯現役、挑戦をあきらめない生き方』文/印南敦史
作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)などがある。新刊は『書評の仕事』 (ワニブックスPLUS新書)。
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