これまで歩んできた人生を振り返ってみると、20代より30代、30代より40代、40代より50代と、どんどん自由になって幸福度が上昇している実感がある。
『人生のピークを90代にもっていく!』(枝廣淳子 著、大和書房)の著者は、本書の冒頭にそう記している。
そして50代になったいま、「人生のピークを90代に持っていこう!」と本気で考えているのだそうだ。世界中の幸福度研究のなかから、「人生の後半を幸せに生きていくための秘訣」を数多く吸収してきた結果、そのような考え方に至ったというのである。
20年ほど前から、環境問題に取り組んできたという人物。さまざまな活動に携わるなか、至ったのは「幸せとはなにか、経済や社会の仕組みはどうあるべきかを考えることなく、環境問題を本当に解決することはできない」という思いだ。
そこで2011年1月に「幸せ経済社会研究所」を設立し、現在も勉強や研究・実践活動を続けている。
具体的には、ブータン政府の「国際専門家委員会」の一員として活動したり、人口減少と高齢化が進む日本において「人々の幸せをどう測るか」「自分たちらしい幸せとはなにか」という研究や調査にも携わるなど、活動は広範だ。
そのような経験から得てきた学びや知見には、「本当に幸せな『人生の午後』を生きるには、どうしたらよいのか?」についてのヒントが多いというのである。
そんな著者には、本書を通じて伝えたいメッセージが大きく3つあるのだという。
1つめは、「人生の午前中の義務(会社勤め、子育てなど)からリタイア(引退)するからといって、自分の人生からリタイアしないこと!」。
2つめは、自分の外にあるものを追いかけて獲得することで満足するという、「幸せの外部依存度」を減らし、あるがままの自分に幸せを感じられる、「幸せの自給率」を高めていくこと。
3つめは、いくつになっても革新し続ける、しなやかで生命力あふれる人でいること。
(本書「はじめに」より引用)
ところで長寿化が進むなか、PPK(ピンピンコロリ)ということばが誕生した。いまやすっかりおなじみだが、「ピンピンコロリ」とは「寿命=健康寿命」で人生を終えられるということ。したがって、「健康寿命を伸ばしたい」と考えるのは、人として自然だということになる。
しかし、それだけではないはずだと著者は主張するのだ。
私は「『ハピハピコロリ(HHK)』がいいなあ!」と思っています!
死を迎える時まで、ハッピー、ハッピー。
「自分は幸せだなあ、幸せな人生だったなあ」と思って死んでいける人生です。
伸ばしたいのはズバリ、「幸福寿命」なのです。
(本書21ページより引用)
「幸福寿命」とは、「自分はおおむね幸せだと思いながら、毎日を生きている期間」。その部分を守りつつ、伸ばしていってこそHHK(ハピハピコロリ)で人生を終わらせることができるという考え方だ。
そして、人生を「HHK(ハピハピコロリ)」なものにするためには、「人生のピークを90代に持っていく!」という意識を持つことが大切だというのである。
さらにもうひとつ重要なのは、会社勤めをしてきたなかで培われた「だんだん上昇し、定年を迎えるとがくっと落ちる」というような人生イメージに縛られる必要はないということ。というよりも、「縛られてはいけない」というべきなのかもしれない。
よく言われる「勤め上げる」「子どもを育て上げる」などの表現には、勤め上げたら、育て上げたら、「上がり」だという意味が込められている。寿命が50歳程度だった昔の基準だと、「上がり=人生の上がり」ということになるわけだ。
でも、今は違います。
日本人の平均寿命は男性が80歳ちょっと、女性は87歳を超えています。勤め上げ、育て上げても、「人生、上がり」ではありません。そこからさらに20年、30年と人生が続きます。(本書25ページより引用)
つまり、これから先に残されている20年、30年をどう生きていくべきかによって、人生全体の納得度が大きく左右されるということ。
だからこそ、50代・60代は「90代のピークに向けて上昇カーブを描くまっただなかの状態」にあるという発想である。たしかにそう考えてみれば、残りの時間を有意義に生きていくことができそうだ。
『人生のピークを90代にもっていく!』
枝廣淳子 著
大和書房
税込1,650円
2018年11月発売
文/印南敦史
作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』などがある。新刊は『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)。