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文/鈴木拓也

頑固で言うことをきかない親に免許返納をどう説得するか|『大切な親に、これなら「決心」させられる! 免許返納セラピー』

久しぶりに帰省したら、地元駅まで父親が車で迎えに来てくれた。助手席に座って家路につくと、どうも運転が危なっかしい。一度は、横断歩道の停止線を越えてから急ブレーキをいきなりかけ、ヒヤリとした…親が後期高齢者であれば、こうした経験を持つ人は少なくない。ヒヤリ体験をしたとき、脳裏に浮かぶのは「自主返納」の漢字4文字だろう。

警察庁によれば、2018年に運転免許を自主返納した人は約42万人。その10年前は約3万人であったから、桁違いの伸びである。しかし、身体機能が衰えて同乗者を不安にさせる運転をしながら、かたくなに返納を拒む高齢ドライバーもまた多い。

そこで必要になるのが、子どもによる免許返納の説得。これをスムーズに運ぶためのガイドブック『大切な親に、これなら「決心」させられる! 免許返納セラピー』が刊行されている。

■自分の老いもネタに切り出す説得術

本書には、いかに親に気持ちよく納得ずくで自主返納してもらうか、そのノウハウが詰め込まれている。基本的に説得という手段を用いることになるが、それにも「ビギナーズラックの説得レベルI」、「あせらず攻め込む説得レベルII」、「ラストスパートの説得レベルIII」の3段階があり、状況に応じて使い分けることになる。

「説得レベルI」は、「きっかけを間違えなければ、あっさり決まる可能性」がある方法。相手が頑固一徹でなければ、これだけでうまくいくことも多い。例えば、心理学でいう「フィーリング・グッド効果」の応用。「心地よい環境に置かれたときに、対人的評価が好意的になって、説得が成功しやすくなる」という効果を生かすものだ。

たとえば、お父さんの誕生日や結婚記念日など、家族みんなが集まれるお祝いの席を設けてみてはいかがでしょうか「美味しい食事」には、どんな人の心も溶かしてしまう魔法の効果があります。(中略)あなたの親御さんにとって自主返納が、いきなり切り出されたら不愉快な話題であったとしても、家族水入らずの和気あいあいとした環境の中であれば、少なくとも聞く耳は持ってもらえると思います」(本書081~082pより)

これとは別に、「自分の老いを話題に出して」共感を誘うという意外なやり方も載っている。「恥ずかしい話、近頃、尿漏れで困っているんだよなあ。親父が俺ぐらいのときはどうだった?」などと切り出すことで、いつも強がって弱みを見せない親の心のガードを下げる効果が期待できる。親が自分から運転の悩み・不安について話し始めることだってあるかもしれない。

NGなのが、言葉の足りなすぎる説得とも呼べない会話。「そろそろ返納したら」「もしも事故を起こしたらどうするの?」では、親子の溝は深まってしまうばかりだ。

■気持ちを伝えたら一度引いてみる

説得レベルIIでは、少し長丁場になる場合を想定した「あせらず心をほぐす6つのメソッド」が盛り込まれている。

その1つが「気持ちを伝えたら、一度引いてみましょう」。これは、返納してほしいという家族としての気持ちを伝えたら、それ以上はたたみかけず、ちょっと我慢するというもの。これは、親を信頼しているというメッセージになり、家族としては、一度引いた時間を使って返納後のサポートなどを熟慮する余裕にもつながる。

また、「フット・イン・ザ・ドア」というビジネス心理学の理論に基づいた「小さな願いごとをした後で、大きな願いごとをする」やり方もある。例えば、「交通安全教室に行こう」「夜だけ運転を控えて」などといった小さなお願いをする。それをしばらく続けた後で、返納の話を切り出すとうまくいきやすい。子の頼みを受け入れる自分という自己イメージを崩したくはない心理が働くからだ。

■最後は情に訴えて泣き落とす

説得レベルI~IIの説得が功を奏さず、いつ事故を起こすかと冷や冷やするような運転を続けているなら、最後の手段は説得レベルIIIだ。これは、「情に訴えて泣き落とす」というシンプルだが最強の方法。
…と言われても、なかなか実行は難しいかもしれない。本書には、この方法で成功した家族の実例が幾つか載っていて、これが参考になる。以下は、免許センターでカウンセリングを行う看護師が同席してのシーンだ。

専門家の人が一緒にいてくれる安心感も手伝って、私は父に本音をぶつけました。毎日、父が車で出かけるたび、事故に遭わないか心配でならないこと。高齢ドライバーの事故のニュースをテレビで見るたび、父のことを思って胸が締め付けられること。話しているうちに感情が高ぶって涙があふれてきました。すると、隣にいた看護師さんが父の手を握って、「娘さんにこんなに心配されて、本当にお父さんは幸せですね。だから、絶対にこんなやさしい娘さんやご家族を悲しませるようなことをしたらだめですよね」と涙ながらに訴えてくださったのです。(本書142pより)

この父親は、その場で免許返納を約束した。別の成功例でも、子ども以外の第三者が加わって感情を交えた説得をしているが、かなり効果的なことがわかる。

■親の心変わりはこうして防ぐ

「免許返納する」と親が約束したものの、後になって心変わりする可能性はある。特に、「次の更新で返納する」と言った場合、更新が数年も先だと、心が揺れ動かない人はいない。
本書が提案するのは、返納宣言からあまり間をおかず「返納決定祝賀会」を開催するというもの。誕生日や結婚記念日を祝うのと同じように、返納を決めてくれたことに家族みんなで感謝する。また、「ラストドライブ」の日にちを決めるのも有効。「〇月〇日。目的地は△△。私の車で妻と最後のドライブ」というふうに、運転をする最後の日を設けてもらうことで、親に心の準備をさせておく。

*  *  *

本書の監修者は日本交通心理学会の事務局長であるだけに、心理学の知見に根差した説得のテクニックは大いに役立ちそうだ。親に免許返納を切り出したいが、「どうせ無理」などと感じているなら、本書から得るものは大きいはずだ。

【今日の家族の安心に役立つ1冊】
『大切な親に、これなら「決心」させられる! 免許返納セラピー』

http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000324668

(志堂寺和則監修、本体980円+税、講談社)『大切な親に、これなら「決心」させられる! 免許返納セラピー』

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。

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