【ビジネスの極意】「モチベーション」と「やる気」は違います
仕事をするに際し、「モチベーション」が重要というのはよく言われることだ。「モチベーション」はよく「やる気」と言い換えられることが多いが、実は違うのだという。
リーダーシップとマネジメントに悩む、マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研」から、「モチベーション」と「やる気」の違いを理解しよう。

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モチベーションをやる気と捉えるのは危険信号

言われたことだけを受け身の姿勢で行っている部下をみると、モチベーションが低いと感じるかもしれません。しかし、その態度をやる気がないからだと決めつけるのは危険信号です。

なぜならモチベーションとやる気は異なるからです。

マズローの欲求段階説で見るモチベーションとは

何気なく使用するモチベーションの言葉ですが、正確には「動機付け」を指します。「最新・心理学序説」(本明寛 監修)pp267では「モラールとは職場集団のやる気であり、それを規定する要因として多くの調査を通じ、職務それ自体、給与、人間関係、福利厚生、監督方法、経営方針が重要であるとされてきている」と記しています。
つまり、部下のモチベーションを高めるのは動機づけが関与します。動機付けで最も有名なのが心理学者のマズロー(A. Maslow)の欲求5段階説です。具体的には生理的欲求、安全欲求、愛と所属の欲求、承認と名誉の欲求、自己実現欲求の順に積み重なっていきます。

「組織を動かすコミュニケーション力」(高橋眞知子)pp74-75によると「生理的欲求:生命維持のための本能的・根源的な欲求」「安全欲求:命を脅かされないための安全や生きるための収入や財産の保全欲求」「愛と所属の欲求:誰かに愛されたい、集団に帰属したい欲求。パートナーや仲間を得て、集団や会社に入りたいという欲求。受容されたい欲求」「承認欲求:自分が認めてほしいと認知する他者から、自分を価値ある存在として評価され、昇格・表章・地位・権力・名声を得たいという欲求」「自己実現欲求:自分を高め、能力・可能性を発揮して創造的な活動や自分を成長させる活動をしたい欲求」と記しています(一部抜粋)。

補足をすると、生理的な欲求は動物的な欲求であり、食欲や睡眠欲、排せつ欲や性欲などを含みます。安全欲求とは生計を維持できる賃金の支払いや将来に脅かされない雇用面の安定なども含むと推測されます。

最低限整えるべき労働環境

部下が主体的にモチベーション高く取り組んでほしいのなら、下の4つの欲求を満たしてあげる必要が出てきます。「最新・心理学序説」(本明寛 監修)pp135では「マズローは人間の動機を欠乏同期と成長同期に2分する」と記されており、「欠乏動機が十分に満たされると、成長同期が表れてくる」と記しています。以上のことから、自己実現欲求は、他4つの欲求が満たされて初めて芽生える欲求であり、自身の能力を高めていきたいと考えさせるにはそれ以前の4つの欲求を十分に満たすための労働環境の提供が必要と言えます。

たとえばIT業界にお勤めのYさんは連日残業が当たり前の環境で生活していました。終電前に帰れる方が稀であり、日によっては会社に置かれている寝袋で寝起きすることもしばしばありました。昼食や夕食もきちんと食べれることの方が少なく、仕事の合間に自席でおにぎりやパンをつまみながらの生活でした。不満が日増しに募るとともに、体調不良を引き起こし、退職に至っています。

このケースでは、生理的な欲求も満たされていません。睡眠も4~5時間程度であり、食事も日によって欠食となっています。人間の三大欲求である食欲や睡眠欲が満たされていないことで、命の危険を感じ取り退職に至ったとも考えられるでしょう。企業においては、部下が6時間以上の標準睡眠がとれる環境を確保し、1日3食の食事ができる環境を用意することは最低限必要な労働環境の整備です。

広告業界にお勤めのKさんは、正社員登用見込みのある紹介予定派遣として働いていました。正社員登用のために仕事を熱心に覚えた結果、仕事で成果を出しましたが、Kさんは当然との態度で扱われ、褒められることはありませんでした。一方で、同期が成果を出した際には全体周知の場で上司より、褒められていました。Kさんは目標数字をクリアしていましたが、社内の業績不振を理由に契約社員での登用を言い渡されました。不服に思い、契約満了後にKさんは別の会社に就職しなおしています。

このケースは安全欲求、愛と所属の欲求、承認と名誉の欲求の3つが満たされていない例です。正社員という安全を求めているのに、有期雇用である契約社員の宣言は、Kさんにとっては雇用が不安定なものでした。

加えて、この例では結果に対してプラスの評価がありません。これは承認と名誉欲求を満たしていない状態です。人は認められたい生き物ですが、必ずしも認める行動が昇格や昇給などでなくてはいけないわけではありません。人前で褒める行為は十分に承認と名誉の欲求を満たすことになります。

Kさんは評価されないだけでなく、同期は褒めらえるというプラスの評価を与えられているのを目の当たりにしました。これは愛と所属の欲求を傷つける行為です。誰か一方には「良い」と評価が下り、自分の時だけ評価が与えられないという経験は「この会社で自分は受け入れられていない」「必要とされる環境ではない」と感じるには十分すぎる状態だからです。

このケースを改善するポイントは2点あります。1点は雇用が安定した正社員登用を契約満了とともに取ると早期に約束し、実行に移すことです。いつ社員登用になるのかが見えない状態は労働者にとって不安定な状態であり、生活が落ち着かないからです。もう1点はKさんが結果を出した際に、全体周知の場で褒めることです。朝礼や夕礼、ミーティング時などでも構わないので、褒める時は全体の前で実施すると承認欲求や名誉欲などを満たしてあげることができます。

「あなたが必要」がモチベーションを引き出す

部下のモチベーションを上げるには、下の4つの欲求を満たしてあげることが大切ですが、生理的欲求や安全欲求、愛と所属の欲求が満たされていると感じる場合には、4つ目の承認と名誉の欲求を与え続けることが肝になります。2つの事例を紹介します。

IT業界に10年以上勤めているTさんは、中間管理職の立ち位置です。日々プレッシャーを感じる労働環境でしたが、あるとき上司にある企画の責任者を抜擢されます。戸惑いを隠せませんでしたが「この企画を任せられるのはお前しかいない」と頼りにしている旨を伝えられました。Tさんは上司から自身がその企画を成功させるために必要なメンバーであることを打ち明けられ、引き受けました。高いモチベーションをキープし、企画は無事成功を収めました。

営業職であるSさんは、取引先企業でプレゼンテーションをすることになりました。プレゼンテーションを成功すれば、大口の契約に至るという非常に重要な場のため、想定される質問への回答など考えられる準備をすべてこなして挑みました。しかしSさんは緊張のあまりうまく説明できず、契約を取ることができませんでした。課長より次回以降のプレゼンテーションから外すように言い渡されますが、直属の上司が課長に掛け合い「もう一度、彼女にチャンスを与えてください。責任はすべて取ります」と説得により、リベンジのプレゼンテーションの機会をもらいます。直属の上司から「あなたならできるはずだから」と言葉をもらったことで、Sさんは実際に声に出してカラオケルームや自宅等で何度も練習し、リベンジは無事成功との結果になりました。

これらの2つの例からわかるように、「あなたが必要」「あなたならできる」との評価は高いモチベーションを引き出します。

なぜなら上司が「あなたならできる」「あなたが必要」だと高い評価をし、認めてくれているからです。「組織を動かすコミュニケーション力」(高橋眞知子)pp75の中で、承認欲求を「他者から、自分を価値ある存在として評価」されることとして記しているように、上司の態度によって、所属する組織に自分は必要とされていると感じ、承認欲求が満たされたことで自己実現欲求のステージに上がり、成功をもたらしたたと推測されます。上司の効果的な発言は部下の自信や誇りにも結び付き、モチベーションやパフォーマンスの上昇にもつながりやすくなるのです。

まとめ

部下のモチベーションが下がっているのを目の当たりにすると、やる気がないからだと判断する方が多いです。しかし実際にはモチベーションとは動機づけのことであり、人間に備わっている欲求です。部下の意欲がないように感じるのならば、基本的な睡眠や食事などがとれる環境づくりや安定して働ける労働環境、温かく受け入れるかかわり方や良いところを褒めて評価する対応なども大切です。単なるやる気の問題と片付けずに、欲求を満たせる環境づくりをすることをおすすめします。

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いかがだっただろうか。「モチベーション」とは「やる気」ということではなく、「動機付け」のことだということがおわかりいただけただろうか。仕事へのモチベーション=動機付けが低くなると、自然とやる気もなくなってくる。やる気を起こすには、モチベーション=動機付け、を高めることが重要なのだ。

引用:識学総研 https://souken.shikigaku.jp/

 

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