
ある程度の歳になりますと、よほど親しい友人でもない限り、本音で意見してくれたり、苦言を呈してくれる人などいないものです。若い人からも、徐々に敬遠されるようになってきますと、諫言(かんげん)されることもなくなります。
そうなってから始まる「長い老後」と呼ばれる生活にあって、考え方の柔軟さを保ち、激しく変化する社会へ順応するためには、何らかの指針を持っていた方がいいのかもしれません。
温故知新の諺(ことわざ)のごとく、先人が残してくれた言葉や金言にヒントを得てみてはいかがでしょう。
今回の座右の銘にしたい言葉は「深慮遠謀」(しんりょえんぼう) です。
「深慮遠謀」の意味
「深慮遠謀」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「遠い将来のことまで考えて周到にはかりごとを立てること」とあります。この四字熟語は二つの言葉から成り立っています。「深慮」は物事を深く思慮すること、「遠謀」は遠い将来を見通した計画や策略を指します。
つまり、目先の利益や結果にとらわれず、長期的な視点で物事を判断し、行動する姿勢を表しているのです。
現代社会では、即断即決やスピード感が重視されがちです。しかし、本当に大切な判断には、じっくりと考え抜く時間が必要です。特に人生の後半戦を迎えたシニア世代には、これまでの経験を活かし、慌てず騒がず、落ち着いて物事の本質を見極める力があります。
「深慮遠謀」は、そんな私たちの強みを言葉にしたものといえるでしょう。家族のこと、財産のこと、地域社会への貢献など、これからの人生設計において、この言葉の精神は大いに役立つはずです。
「深慮遠謀」の由来
この言葉のルーツは、中国前漢の学者・賈誼(かぎ)の『過秦論』(かしんろん)にあります。秦の滅亡を批判した一文に「深謀遠慮、行軍用兵之道、非及曩時之士也」。とあり、意味は「深く考え遠く見通す軍事策は、過去の諸侯に及ばない」。秦は短期的な征服に走り、長期視野を欠いた末路を描いています。
また、三国志に登場する諸葛孔明(しょかつこうめい)のような軍師をイメージされる人も多いでしょう。
実際に「深謀遠慮」(しんぼうえんりょ)という似た言葉が使われることもありますが、意味は同じです。孔明が「天下三分の計」のような壮大な戦略を描いた姿は、まさに深慮遠謀の極みです。
現代を生きる私たちにとっても、不確実な未来に対して「どう備えるか」という問いは変わりません。2000年以上前の中国の知恵が、今の私たちの心にも響くのは感慨深いものがありますね。

「深慮遠謀」を座右の銘としてスピーチするなら
「深慮遠謀」を座右の銘としてスピーチするときに、大切なのは「なぜその言葉を選んだのか」という個人的なエピソードを交えることです。単に言葉の意味を説明するだけでなく、自分の人生経験と結びつけて語ることで、聞き手の心に響くスピーチになります。以下に「深慮遠謀」を取り入れたスピーチの例をあげます。
人生後半戦を彩るためのスピーチ例
私の座右の銘は「深慮遠謀」です。この言葉を選んだのは、50代半ばで大きな決断を迫られた経験がきっかけでした。
当時、勤めていた会社で早期退職の話があり、多くの同僚が退職金の額だけを見て決断していました。しかし、私はあえて半年間、じっくり考える時間をいただきました。自分のスキル、家族の状況、老後の生活設計、そして何より「これから何をして社会に貢献できるか」を深く考えたのです。
結果として選んだのは、退職後に地域のNPO活動に参加する道でした。収入は減りましたが、今振り返ると、あの時の「深慮遠謀」が、充実したセカンドライフへの扉を開いてくれたと感じています。
この言葉には、私たちシニア世代の強みが凝縮されています。豊富な経験があるからこそ、物事の本質を見抜ける。時間的な余裕があるからこそ、慌てず判断できる。そして何より、残された人生を本当に価値あるものにしたいという思いがあるからこそ、深く遠くを見据えることができるのです。
これからも「深慮遠謀」を胸に、一日一日を大切に生きていきたいと思っています。
最後に
長年にわたって培ってきた経験と知恵は、シニア世代の最大の財産です。その財産を活かし、残された人生をより豊かに、そして社会に貢献できる形で生きていくために、この「深慮遠謀」の精神は欠かせません。若い頃のように、勢いや直感だけで物事を決める必要はありません。
むしろ、時間をかけてじっくり考え、長期的な視点で最善の選択をすることが、これからの人生には求められます。家族のため、地域社会のため、そして何より自分自身のために、深く遠くを見据えた生き方を選んでいきましょう。
●執筆/武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com











