孫の顔を見て、両親は笑顔で泣いていた
両親に伝えることなく、結婚、出産をし、安里さんは43歳で1児の母親になった。子育てを続ける中で、親に対する気持ちに変化があったという。
「私は高齢出産で、この子にきょうだいを作ってあげることもできません。この子が20歳になるとき、私は63歳で、年下の夫も58歳です。私たちがいなくなった後、この子のことを守ってくれる存在がいてほしいと思いました。本人が望まなければ結婚しなくてもいいけれど、側にいてくれる人がいると安心して死ぬことができると。そのときに、ふと私も一人っ子なので、母親にはこんな気持ちがあって、急に結婚をしろとしつこく言ってきていたのかもしれないと思ったんです。あくまでも想像ですけど、少し母親のことがわかった気がしました。こんなにかわいい我が子を否定し続ける親の気持ちは、ちっともわからないですがね」
安里さんは久しぶりに実家に電話をかけ、実家に子どもと夫を一緒に連れて帰るとだけ言って、電話を切る。10年以上ぶりに会った両親は、孫の顔を見て、泣きながら笑ったという。
「私の娘のことを否定したら、今度こそ縁を切ってやろうと意気込んで行ったら、両親は笑顔で、孫に一瞬でメロメロになりました。夫のことも大歓迎してくれて、両親と久しぶりに会う私に一番関心がない感じでしたね」
子どもが大人になるということは、親は老いを実感する年齢になったということ。自分たちが亡き後に、自分たちに変わって子どもを守ってくれる存在を求めてしまうのは、親心なのだろう。ただ、子どもの意見も聞かずに、ただ「結婚しろ」と言い続けてしまうのは、あまりに不器用であり、これが親子のすれ違いを生んでいる感も否めない。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。
