「性への欲求が抜けた関係はいいものです」


マッチングアプリで、30人以上の男性とメッセージでやり取りし、会うかどうかを決めた。

「毎日、たくさんの男性とマッチして、相手のプロフィールを見るから、真実を見る目が養われる。写真の加工の痕跡とか、趣味から貯金の有無を類推するとかね(笑)。だから旅行や車が趣味の人は避けました。

私が感じたことは、受け身をやめると出会いは多いということ。程よく性欲が抜けたこの世代になると、女性が積極的でないと、出会うことができなくなる。そこからは、少しでもいいと思ったら積極的に会うようにしていました。

最初はホテルのラウンジで待ち合わせたらワリカンにされたことがあったので、駅前で待ち合わせてチェーン店に行くように。どの人もみんないい人だったんですが、家政婦と介護要員を求めている感じが見えると、そこで心のシャッターを下ろしました」

元夫が男尊女卑だったこともあり、フラットに友達感覚で付き合える人を求めていた。出会いを重ねること15人、16人目に今の彼と知り合ったという。

「彼は私より2歳年下で、システムエンジニアをしている。妻とは死別していて、息子さんは独立していた。たまたま家も近くで、週末に趣味で農家さんの手伝いをしている。

美男子でもなく、相手も借家住まいなのですが、お互いにいいと思いました。感覚が合うんですよ。2度ファミレスで食事をして、3度目の約束をするとき“僕の家に来ませんか?”と言われて彼の1Kの狭いマンションに行くと、たくさんの野菜とお肉が用意されていました」

洋子さんが「ジンギスカンを食べたことがない」と言っていたので、彼は用意していたのだ。

「彼が作った野菜や、採りたての山菜でのジンギスカンはとても美味しかった。彼はタレまで作ってくれて、思わず“結婚を前提に交際しませんか?”と言ってしまいました。彼は“僕が言おうと思ったのに、先を越されてしまった”と笑う顔が可愛くて、胸がキュンとなりました。お互いに程よく性欲が抜けているから、その日はお互い抱き合う程度。お互いの肌の温もりを感じる程度のスキンシップで、満たされるんです。そういうのもいいものです」

経済不安という“ゆらぎ”がなければ、彼と出会うことはなかった。

「私の定年までの2年間交際し、続いていたら入籍することにしました。と言っても、何があるかわからないから、婚姻届は用意しています。もし、どちらかが倒れたらこの届を役所に出して、夫婦になる。そうすれば、入院の手続きや延命措置の判断などもできるでしょ」

保証人には娘と、彼の息子がサインしたという。

「お互いに特別な財産もないし、子供たちも自立しているから、喜んでくれました。家を買わなくて良かったと思ったのは、これが初めて」

彼とともに、健康を維持してできるだけ長く働き、時々一緒に旅行に行こうと、今後のことを話しているという。洋子さんはゆらぎの時代を、等身大の自分と向き合いながらやり過ごしてきた。その先に、求めていた穏やかな人生を手に入れたのだ。

取材・文/沢木文

1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(小学館新書)がある。

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