近年、中高年になってから離婚する人の数は増えてきました。離婚するとなるとやはり気になるのはお金の問題ですね。今回は、離婚時の年金の分割について、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
年金分割とは? 離婚時に押さえておきたい基本知識
年金分割のシミュレーション|20年の場合の金額は?
年金分割の手続き|具体的な流れと注意点
まとめ

年金分割とは? 離婚時に押さえておきたい基本知識

夫婦の収入差が大きい場合、老後の生活に不安を感じて離婚に踏み切れない人もいるでしょう。まず、年金分割の目的と基本的な仕組みについて知っておきましょう。

年金分割の基本概念

離婚する時は、二人の共有財産は分け合うことが一般的です。将来の年金も例外ではありません。たとえ片方が専業主婦(夫)だったとしても、結婚生活で築いた財産は二人の努力によるものです。離婚時の年金分割は、結婚生活の中の夫婦それぞれの経済的貢献度を公平に評価することを目的としています。分割の制度は次の2種類があります。

(1)合意分割制度

婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬)を、二人で合算して当事者間で分け合うことのできる制度です。どのような割合で分け合うかは当事者間の話し合いによる合意、または裁判で決定します。

(2)3号分割制度

第3号被保険者だった人の請求により、婚姻期間中の相手の年金記録を2分の1ずつ分け合うことのできる制度です。国民年金の第3号被保険者というのは、厚生年金の被保険者に扶養されている配偶者のことです。分割できるのは平成20年4月1日以降の第3号被保険者だった期間に限られますが、3号分割は相手の合意は必要ありません。

国民年金は対象外

国民年金は全国民が対象となり、加入月数による定額計算となります。一方、厚生年金は加入月数とその間の標準報酬(給与・賞与の額に応じて決まる)に基づいて計算されます。離婚時分割制度の対象になるのは、婚姻中厚生年金の被保険者だった期間の年金記録です。国民年金は対象にはなりません。

したがって、相手方が自営業者などで国民年金の被保険者期間しかない場合は、分割できる年金はありません。第3号被保険者だった期間は国民年金のみの加入になりますから、相手方の厚生年金記録の2分の1の分割を受けることになります。なお、合意分割の請求をしたとき、婚姻中に3号分割の対象となる期間がある場合は、同時に3号分割の請求もあったものとみなされます。

年金分割のシミュレーション|20年の場合の金額は?

年金分割は基本的に、報酬の高いほうから低いほうに年金記録を分けることになります。婚姻期間20年の夫婦を例にとり、2種類のケースに分けて具体的に試算してみましょう。

合意分割と3号分割を行なうケース

夫:厚生年金加入 20年  
妻:厚生年金加入 12年(合意分割)、専業主婦 8年(3号分割)

合意分割期間の標準報酬の合計
夫 5,000万円
妻 2,500万円
3号分割期間の標準報酬の合計
夫 5,000万円
※専業主婦であった期間は平成20年4月1日以降の期間

共働きの12年間の標準報酬を3対2の割合で合意分割すると、夫4,500万円、妻3,000万円となります。妻が専業主婦の期間は3号分割となるので、8年間の標準報酬はそれぞれ2,500万円となり、20年間の標準報酬の合計は夫7,000万円、妻5,500万円となります。

3号分割のみを行なうケース

20年間の婚姻期間中、平成20年4月1日以降の期間が16年あったものとして試算します。
夫:厚生年金加入 20年  
妻:専業主婦 4年(分割なし)、16年(3号分割)

分割なしの期間の標準報酬の合計 夫 2,000万円
3号分割期間の標準報酬の合計  夫 8,000万円

3号分割の期間の標準報酬は夫4,000万円、妻4,000万円に分けられます。したがって、20年間の標準報酬の合計は、夫6,000万円、妻4,000万円となります。年金記録を分割するとそれぞれの標準報酬が改定され、改定後の金額に基づいて年金が計算されることになります。

具体的な年金の目安

標準報酬が改定されると、受け取る年金額はどう変わるのでしょうか? 20年間の婚姻期間中第3号被保険者だった人を、例にとって考えてみます。年金の分割を受けないと、婚姻期間は国民年金の被保険者としての年金しか計算されません。国民年金は40年間加入したとしても、年額は81万6千円(令和6年)です。

一方、16年間で4,000万円分の標準報酬の分割を受けたとします。その間の標準報酬の平均月額は、およそ21万円となり、試算すると年間23万円程度の厚生年金が国民年金に加算されることになります。ちなみに、標準報酬月額が20万円の月が10年間あると、受給できる厚生年金はおよそ年14万円、30年間だと年40万円以上となります。

年金は終身もらえるものですから、長生きすればするほど恩恵は大きくなります。合意分割も同様で、対象期間が長いほど分割を受ける方にメリットがあります。

年金分割の手続き|具体的な流れと注意点

最後に、手続きの流れと注意点について確認しましょう。手続き書類は、年金事務所や街角の年金センターで入手することができます。

年金分割手続きのステップ

離婚後に年金分割をする場合は、それぞれの厚生年金記録を把握しないと不安ですね。当事者の双方、又は一方からの請求で、日本年金機構から情報提供を求めることができます。「年金分割のための情報提供請求書」を年金事務所に提出して、情報通知書を送ってもらいましょう。

分割の手続きをする際には、「標準報酬改定請求書」にマイナンバーなどの必要書類を添付して提出します。合意分割の場合は、話し合いで決めた按分割合の合意書、裁判で決めた場合の審判書などが必要です。手続きが完了し、標準報酬の改定が行なわれると、年金の金額が変わります。

年金分割の申請における注意点

離婚時に年金分割をしようと思っても、見込み通りにいかない場合もあります。例えば海外からの転入や保険料の未納などで、分割を受ける当事者が年金の受給資格期間(10年間)を満たしていない場合が挙げられるでしょう。分割を受けた厚生年金記録は、受給資格期間を満たすための月数にはカウントされません。

また、分割の割合などでもめてしまうと、離婚後の話し合いが長引いてしまうことがあります。年金の分割は、原則として離婚の翌日から2年を経過すると、請求できませんのでその点も要注意です。年金の計算は複雑で、わかりにくいものです。年金事務所などに相談するほか、社会保険労務士など専門家のアドバイスを求めるのもいいでしょう。

まとめ

離婚した後、年金も分割できることを知らない人は少なくありません。けれども、長い老後を考えると少しでも年金を増やすことは重要です。後悔しないためには、専門家などにも相談して正しい知識を身に着けておきましょう。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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