一家の働き手が亡くなった時、遺族年金は残された家族の支えになります。遺族年金の金額がどのくらいになるのかというのは気になる問題です。

今回は、遺族のライフステージを踏まえた年金の見込額について、人事・労務コンサルタントとして、「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
遺族年金の受給金額の目安とは?
子どもがいる場合・いない場合の遺族年金
年齢・性別による遺族年金の金額
遺族年金の受給額のシミュレーション
まとめ

遺族年金の受給金額の目安とは?

遺族年金の支給額は、受給者の年齢や家族構成によって異なります。金額がどのように決まるのか、その仕組みについて見ていきましょう。

遺族年金の支給金額を左右する要因

遺族年金は、国民年金・厚生年金の被保険者や年金受給者が亡くなったとき、亡くなった人に生計を維持されていた家族に支給される年金です。

国民年金の遺族基礎年金と遺族厚生年金では、遺族の範囲や受給するための要件が異なっています。まずは、自分が受給対象者かどうかを確認しましょう。亡くなった人が年金受給者や、年金の受給資格を満たした人である場合は、保険料納付期間と免除期間を合わせて25年以上あることが条件です。

厚生年金は報酬比例の年金ですから、亡くなった人の収入と被保険者期間によって遺族厚生年金の金額は異なります。

一方、遺族基礎年金の額は定額になっています。受給できるのは一定の要件を満たした子と子のある配偶者のみ。したがって、子の人数によって支給される総額は変わってきます。

子どもがいる場合・いない場合の遺族年金

遺族基礎年金は子どもがいることが要件ですが、遺族厚生年金は子どもがいなくても受けとれる年金です。それぞれの年金の金額の目安や注意点などを、少し詳しく見ていきましょう。

子どもの人数による金額の目安

遺族基礎年金の対象となる子とは、18歳になった年度の3月31日までにある子か、20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある子を指します。

子のある配偶者が受け取る年金額は令和6年の場合、「816,000円+子の加算額」となります。子の加算額は条件に該当する子の1人目、2人目は234,800円、3人目以降は78,300円です。

子が年齢などの条件に該当しなくなったときや婚姻した場合は、受給対象から外れます。

なお、遺族基礎年金は受給する配偶者の年齢・性別は問われません。

遺族厚生年金の注意点

遺族厚生年金は遺族基礎年金より受給者の範囲が広く、父母や祖父母、孫なども対象になっています。ただし、最も優先順位の高い遺族のみしか受給できません。配偶者と子は第一順位となっています。

配偶者が妻の場合年齢は関係ありませんが、夫の場合は55歳以上でないと受給対象にはならないので注意が必要です。しかも実際に支給開始になるのは60歳になってからです。

また、30歳未満の子のない妻、または30歳未満で遺族基礎年金を受け取る権利がなくなった妻の遺族厚生年金は5年間のみの給付となりますので、この点も知っておきましょう。遺族基礎年金と遺族厚生年金両方の要件に該当するときは、2つの年金を併給することができます。

年齢・性別による遺族年金の金額

遺族厚生年金は遺族の性別や年齢によって特例が設けられています。次はこの点について解説します。

妻に対する特例

子どもがいない場合や子どもが条件を外れた後は、遺族基礎年金の支給はありません。このような人をサポートする目的で、「中高齢寡婦加算」という制度があります。

次のいずれかに該当する妻の遺族厚生年金には、40歳から65歳になるまでの間、612,000円が加算されます。

(1) 夫が死亡したとき、妻が40歳以上65歳未満で、生計を同じくする子がいない場合。

(2) 40歳当時に遺族基礎年金を受け取っていた妻が、子どもが一定の年齢に達したため、遺族基礎年金を受け取れなくなった場合。

この制度は妻に限られ、遺族が夫の場合は適用されません。

65歳未満と65歳以上の受給金額の違い

年金の受給をトータルで考えると、65歳を境に受給額は変わります。65歳以上になると、遺族厚生年金と老齢基礎年金、自分の老齢厚生年金を合わせて受け取ることができるようになります。ただし、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する分が支給停止になりますので、事実上、老齢厚生年金と遺族厚生年金の2つを併給している場合と金額は変わりません。

また、遺族厚生年金の金額については、65歳以上の配偶者は特例の計算式を選択することもできます。原則の計算式による遺族厚生年金の金額は、亡くなった人の老齢厚生年金×4分の3です。

65歳以上の配偶者の場合は、原則の遺族厚生年金×3分の2+自分の老齢厚生年金×2分の1の金額を遺族厚生年金として受け取ることも可能です。会社勤めをしていた配偶者は、特例の式のほうが高くなるケースも多く見られます。

遺族年金の受給額のシミュレーション

家族が亡くなることはあまり考えたくないことですが、もしものときの保険として遺族年金の見込み額を試算する方法について見ていくことにします。

平均的な遺族年金の受給額

平均的な遺族年金の金額はいくらになるでしょうか? 遺族基礎年金は定額ですが、遺族厚生年金は報酬比例の年金です。

日本年金機構の統計によると、令和6年の遺族厚生年金の平均額月額はおよそ8万2千円となっていますが、受給者の条件が異なるため、一概に参考になるとは言えません。遺族年金の金額のシミュレーションは可能です。

仮に夫が亡くなったとして、妻がもらえる年金額を試算してみましょう。遺族基礎年金は定額ですので、条件を満たした子が何人いるかということで計算することができます。遺族厚生年金は、亡くなった人が年金受給者である場合、老齢厚生年金のおよそ4分の3の金額になります。

年金受給年齢に達していない被保険者の死亡の場合は、その人の「ねんきん定期便」を確認してみましょう。50歳以下の人は加入実績に応じた年金額が、それ以上の年齢の方は60歳時の年金見込み額が示されています。被保険者期間が25年(300月)に満たない場合は、300月加入として計算されることになります。

将来の年金額は物価上昇などによって改定されますが、おおよその目安をつけることができます。

金額が少ないと感じた時は?

遺族年金を試算した結果が予想よりあまりに少ないときは、まず年金の記録漏れがないか確認しましょう。以前「消えた年金問題」が話題になりましたが、「ねんきん定期便」の加入月数に疑問を感じたら、年金事務所に確認することをおすすめします。

誤りがなくとも現実に少ない場合は、年金を積極的に増やすしかありません。存命の間はなるべく長く働くか、60歳以降も国民年金に任意加入して年金を増額することは可能です。なかには、25年以上の被保険者期間がないので遺族年金の対象にならないケースもあると思います。

こうしたケースのために、国民年金には「寡婦年金」「死亡一時金」という制度が設けられています。寡婦年金は、国民年金の加入期間が10年以上ある夫が老齢基礎年金をもらう前に亡くなったときに、妻が60歳から65歳まで受け取れる年金です。

制度の詳細などは、年金事務所などで確認することができます。

まとめ

遺族年金の計算は複雑ですが、厚生省のホームページや年金事務所のパンフレットなどで、制度の仕組みを知ることができます。老後の生活設計のためには、もしもの時に備えて知識を得ておくことも大切です。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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