他人からの性被害は親に話せても、伯母のことは無理だった

賢治さんは取引先の女性からの行為によって、女性の性欲の対象にされること自体にも気持ち悪さを感じるようになってしまう。結婚適齢期がきても結婚しないだけでなく、付き合っている女性もいない息子を両親は心配するようになったという。

「就職してからは実家から離れて暮らしていたんですが、20代後半からは親戚の結婚ラッシュがあって、親からはその度に結婚について聞かれていました。彼女がいると嘘をついたら連れて来いと言われるからいないとずっと本当のことを伝えていたら、心配されるようになったんです。女性に興味ないから、同性が好きかもしれないとか、性機能に障害があるのかもしれないと思われていた気がします」

30代半ばになり、真剣に両親から賢治さんの将来について話し合う機会を作られたとき、女性からの被害を伝えることにしたという。しかし伯母のことは言えなかった。

「私が結婚しないことをどうやったら理解してくれるだろうと考えて、正直に女性が苦手なこと、でも同性が好きではないことなどを話しました。そのときにはその職場は辞めていたので、性被害に遭った女性のことは過去のこととして話すことができました。もう関係ない人で大丈夫だからと。

でも、伯母のことは言えませんでした。母親が傷つくと思ったからです。そのとき伯母は糖尿病を患い、1人では歩行ができない状態でした。伯母は先に夫と子どもを亡くし、1人で私たち親族が多く暮らす地元に戻ってきていました。母親は姉を慕い、ほぼ毎日のように様子を見に行っていたので、その関係が自分のせいで壊れてしまうのが怖かったんです」

大きな部分を隠した賢治さんからの打ち明け話によって、両親は息子に結婚を迫ることはしなくなった。伯母は昨年亡くなり、賢治さんは葬儀に参加したが、「少しも悲しくなかった」と振り返る。

伯母のことを親しい友人には話すことができたのは、親に結婚しない理由を話してから3年ほど経った頃だったそう。トラウマになるほど苦しい体験は、誰かに話すことでカタルシス効果ではなく、心身のバランスを崩してしまう可能性もあるという。それを自ら話せるようになったのは、当時の辛かった気持ちが和らぎ、その体験と距離を取ることができたということだろう。

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

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