老いるだけの人生では「一緒にいる理由がない」
そのまま出来合いが続くと思われたが、母親が60歳で仕事を辞めて専業主婦になったことから手料理は復活したという。しかし、そのままとはいかず、父親が65歳で仕事を引退した後には、母親は父親に家事をしろと文句を言うようになったというのだ。このことにより、夫婦の仲は今までで一番険悪になっていった。
「料理を作る作らないといった時期は、両親のどちらも働いていて、顔を合わすのは朝と夜だけと短かった。だから、大きな揉め事にはならなかった。でも、今は2人ともずっと家に居る状態です。だから母からしたら何もしない父のことが視界に入って腹が立つ。一方の父は小言や文句を言われる時間が増えたことで我慢ができなくなってきているんだと思います」
千鶴さんは父親から「(母親と)一緒にいる理由がない」と言われたという。
「父は『子育てという共通の目的が終わっても、働いていたときはお金を稼いで一緒に旅行に行くなどの目標がまだあった。今は年金生活で旅行なども厳しくなり、目的も目標もなく家に居るだけだから』と苦笑いを浮かべながら言っていました。
私はこれ以上険悪になってもらいたくないので、両親のために夫と相談してできることを探している最中です」
千鶴さんは2人で楽しみを作ってもらうために仕送りを決めたという。さらにはそう遠くない未来に千鶴さん夫婦の実家がある地域への引っ越しも視野に入れている。
後々の親の介護も考え、50代以降に地元に戻る子ども世代は多い。今までなら仕事を辞めて戻るケースが多かったが、今はリモート勤務もあり、地方移住は昔ほど難しくないようだ。実際に、千鶴さん夫婦はコロナ禍から週の半分以上は自宅勤務をしている。今回の親のことを夫婦で話し合ったことで、遠い未来と思っていた自分たちの老後についても話し合うきっかけができたと千鶴さんはいう。同じように、親の老後についても話し合うことが大切になるだろう。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。