取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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真面目だけが取り柄の、成績優秀な娘
嘉之さん(仮名・70歳)は、自分の妹を通じて、娘(40歳)の窮状を知ったという。
「そもそも、こんなことは恥そのもので、お話しできることではないのです。ただ、誰にも言えないうちに苦しくなってきて、もともとあった白髪がさらに白くなりました。なんでこんな娘に育ててしまったんだろうか……と自分を責める毎日です」
嘉之さんは有名私立大学を卒業後、公務員になる。退官後は、団体の相談役になったり、友人の会社の社外取締役になったりと、ゆとりある老後生活を送っている。その屋台骨が、娘によってぐらつき始めているのを感じているという。
「そもそも私と娘は、ここ20年ほどまともに口をきいていません。ケンカをしたわけではなく、考え方が合わないんです。娘は引っ込み思案で、真面目だけが取り柄。誰に似たんだか、地味なんですよ。私はどんどん前に出るタイプですから、息子(35歳)のほうが気が合うんです。2年前に妻が亡くなってからは、娘と私との間を取り次ぐ人が誰もいなくなり、私の妹が娘の様子を伝えてくれていました。娘は先日、私の妹に“おばさん、お金貸して”って訪ねて来たそうです。何があったのかと聞くと、“たぶん詐欺に遭った”と言ったとか。10万円渡したというので、すぐに妹にそのお金を返しました」
娘は30歳のときから都内で一人暮らしをしている。娘と父親は、直接連絡をしたことがない。嘉之さんは娘の連絡先を知らない。
「妹の話によると、娘が被害に遭ったのは、ネットを通じた恋愛詐欺。今、国際ロマンス詐欺と言われているアレのようです。手口はとても単純で、SNSとか出会いアプリを通じて、外国人男性から熱烈なラブレターが届く。つたない日本語で歯の浮くような内容が書いてあるらしいですね。娘はそれにのぼせ上って、お金を振り込んでしまったとか。相手は外国だからどうしようもないですよね」
【それまでも男性に貢いだ経験はあった……。次ページへ続きます】