父の入院が和解のきっかけに

祖母は自宅で転び、寝たきりになった。寝たきりになったことで急激に老いが進行し、誤飲性肺炎で亡くなってしまう。

「祖母が寝たきりになっていることを叔父から聞いたんです。父は何も教えてくれませんでした。寝たきりになったことで認知症の様な症状が出てきていたようで、祖母から私に連絡が来ることもありませんでした。

私を育ててくれたのは祖母だったのに、最後は何もできなかったんです」

祖母の葬儀では、父親と反発し合う時間も気力もなかったという。

「葬儀では父は喪主で忙しくしていて、私は叔父家族と一緒にいたので、父とは少し会話を交わした程度でした。葬儀では、祖母に対する気持ちと父に対する気持ちがぐちゃぐちゃになっていて、何も考えたくなかったのでただ一生懸命動いていました。葬儀はあっという間に終わったという印象でした」

そこからも遥香さんは1人になった父親の様子を見に実家に行くことはなく、父からの連絡もなかったという。父の様子がわかったのは叔父からの電話で。父が「手術のために入院した」という連絡だった。

「祖母だけじゃなく、父にも会えないまま別れることになってしまうかもしれないと、すぐに聞いた病院に行きました。結論から言うと、父は痔の手術で、入院期間も1週間程度でした。病室で痛そうにしながらも、『恥ずかしくて言えなかった』と言う父の姿を見て、思わず笑ってしまいました」

そこから父親とは徐々に連絡を取るようになり、遥香さんに子どもが生まれてからは定期的に父親のほうから連絡が来るという。父親と普通になれたことは嬉しいと言うが、祖母のことでは遥香さんは後悔を口にする。

「父との和解がもっと早ければ、祖母の最後に寄り添うことができたんですよね……。祖母の遺品は父と叔父の家族が整理してしまっていて、私が実家に行ったときには写真やアクセサリーなどの小物が少しあるだけでした。その数少ない遺品を前によく父と祖母の思い出話をするんですが、この機会を嬉しく思う反面、後悔がありますね。

でも、これ以上後悔はしたくないから、父親とはこれからどんなに嫌なことがあったとしても離れるのではなく、父とぶつかってやろうと思っています」

良好な関係だったとしても、一度家を離れた後に親と一緒にいれる時間はほんのわずかしかない。それが祖母と孫という関係であればより短くなるだろう。一番の親孝行は、子どもの元気な姿を見ることだという。祖母と親子のような関係だった短い時間の中で、祖母が見た遥香さんの最後の姿はきっと元気な姿だったはずだ。

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

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