関係が近いからこそ、実態が見えなくなる家族の問題。親は高齢化し、子や孫は成長して何らかの闇を抱えていく。愛憎が交差する関係だからこそ、核心が見えない。探偵・山村佳子は「ここ数年、肉親を対象とした調査が激増しています」と語る。この連載では、探偵調査でわかった「家族の真実」について、紹介していく。
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泥酔し、娘を殴ってしまった
今回の依頼者は、源一郎さん(仮名・63歳)。現在はIT関連会社の社長をしています。この連載を読んで私のところに調査を依頼してくださいました。
「山村さんは浮気調査だけでないと思いまして、そのお願いと言うか、ご相談と言うか……」と電話をかけてきてくださいました。電話では大変歯切れが悪く、お会いして相談することに。
当日、私たちの事務所にいらっしゃったのは、若者ブランドの服を着た、イケイケの男性でした。55歳の頃から会社を経営し、今は従業員4人とアルバイトを20人を抱えるIT関連企業になっているとか。名刺も人気イラストレーターが似顔絵を描いたおしゃれなデザインで、「いかにもIT企業」という印象でした。
「私は今でこそ、おしゃれな仕事をしていますが、43歳から3年間、ホームレスをしていたんです。その後も施設に入ったり、女性の家を転々として、ホントにろくでもない生活だった」
現在は独身で、交際する女性もおらず、仕事一筋に生活をしているとのこと。
「億単位の借金も返し終わったら、生きる目的がなくなってしまって。もちろん社員は大切ですし、会社も大切です。そこは無我夢中で守るのですが、自分の芯がないんです。昨日、お電話したのは、真っ暗なマンションに帰って、我に返ったからです。借金を返しても一緒に喜んでくれる家族がいない。ほめてくれる人がいないって、こんなに虚しいことだったのかと気づきました」
大学卒業後、源一郎さんは有名な商社に勤務します。しかし、38歳の時に、当時の取引先に起業を持ちかけられて退職。その後は坂を転げ落ちるように、人生が転落していったとのことです。
「仕事がない、やる気もなくて、昼間から酒を飲んで、ギャンブルに依存して、浮気相手の女性の家に入り浸りました。そんな私のことを、妻は5年も支えてくれたのですが、酒に酔った私が、当時10歳の娘を殴りつけて離婚。殴ったことは覚えていないのですが、娘が泣いているシーンは脳裏に焼き付いています」
【男泣きに泣いたあと、今の切実な願いを語る。次ページに続きます】